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2016.07.19
宍戸 徳雄
このコラムの第22回~25回で、NLD新政権の掲げている政策について具体的に分析をしてきました。新政権発足からおよそ100日が経過したが、すでに新政権が公約を実現したいくつかの政策がある。
新政権は、行政府の無駄を省き、公務員による汚職撲滅を進めるなど、まずは身内の体制整備に着手している。そのうちの目玉が、中央政府省庁の削減だ。
具体的には、旧USDP政権下において30省1府であった行政府を、20省2府にスリム化した。
この行政改革の内容を、以下、詳細に見てみる。
まず、一部機能の重複のあった財務省と国家計画経済開発省を統合して「計画・財務省」とした。
また役割分担が不明確だった電力省とエネルギー省を統合して「電力・エネルギー省」とした。
更に、農業灌漑省、畜水産地方開発省、協同組合省を統合して「農業・畜水産・灌漑省」とした。
その他、大胆な統合に見えたのが、運輸省、鉄道運輸省、通信省の3つを統合して「運輸・通信省」とした。
あとは、統合が予想されていたものとして、
鉱山省、環境保全・林業省を統合して「資源・環境保全省」と、入国管理・人口省と労働省を統合して「労働・入国管理・人口省」と、宗教省と文化省を統合して「文化・宗教省」と、スポーツ省と保健省を統合して「保健省」と、教育省と科学技術省を統合して「教育省」とした。
それから、新設した行政庁として、メディアでも話題となった「国家最高顧問府」がある。ご存知の通り、国家顧問相は、アウンサンスーチー女史だ。彼女は、大統領府大臣と外務大臣の2大臣を兼務している。しかし、行政府に入ることで、法的に、党務(NLD)と立法府への影響力の行使が出来なくなったことを補完する趣旨で「国家顧問相」というポストを新設したというのが、その背景と狙いと評価される。彼女は「国家顧問相」という立場で、党、並びに立法府への影響力の行使ができる法的根拠を確保しているのだ。
より具体的に説明を加えれば、この国家顧問相(国家最高顧問)職は、国家顧問法に役割が規定されている。国家最高顧問は「憲法の規定内で国家及び国民の利益のために助言」を行うとされており、その「助言に関し、連邦議会に対して責任を負う」とされている。そして「国家顧問法の目的の達成のため、内閣、各省、各組織及び各個人と連絡」と取ると規定されている。
なお、国家最高顧問相の新設につき法的構成を担保する最上位規範として、ミャンマー連邦共和国憲法217条があると思料される。
この連邦共和国憲法217条は「憲法に反しない限り、連邦の行政権は大統領に付与」すると規定した上で、「本項により連邦議会は権限のある機関及び人物に対し責任及び権利を付与することを妨げるものではな」いとし、同時に「本項は、現行法より、関係当局及び関係当局者の責任や権限が大統領に付与されたと見做すものではない」と規定している。
アウンサンスーチー女史は、国家最高顧問、そして大統領府大臣および外務大臣を兼務することで、実質的には、司法権を除く他の2権に対して、直接及び間接的に影響力を行使できるようになったと評価できよう。
ちなみに、外務大臣ポスト就任に拘ったのは、統治法上の要素から明確な理由がある。それは、外務大臣は、国防の最高意思決定機関である「国防・治安評議会」への参加が法的に可能であるからである。この会議への参加を通じて、国軍司令官との法的なパイプが確保されるからである。
実質的な国家権力を手に入れたアウンサンスーチー国家顧問。政権発足後100日を経過して、その真価と実績が問われるステージに移行している。
宍戸 徳雄
Norio Shishido