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2016.09.12
宍戸 徳雄
2016年8月24日、ミャンマー中北部でマグニチュード6.8の大地震が発生、震源地から北方に約30kmに位置する世界三大仏教遺跡の一つであるバガン遺跡も数百の仏塔や寺院が損壊するという甚大な被害を被った。
バガンは、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールと並び世界三大仏教遺跡の一つと称されている。ここには、かつてバガン王朝の都があった。10世紀ころから14世紀ころに建てられた大小3,000もの数の仏塔が立ち並び、仏塔の上層部から見渡すバガンの壮大な平野に立ち並ぶ仏塔・寺院群とその背景に沈む夕日は美しく、それを観るために世界中から多くの観光客が集まる。私もバガンに沈む夕日を観たが、あの感動は忘れられない。
そのバガン遺跡を大地震が襲った。およそ400基もの仏塔や寺院が損壊被害を受けたが、幸いにも人的な被害はバガンにおいては生じなかった。詳細な被害状況については、現在もミャンマー政府(文化宗教省)が調査中であり、またUNESCOの調査チームも被害状況の調査のため現地入りしている。民政移管後、世界遺産登録への期待が高まってきていただけに、UNESCOの関係者にも衝撃が走っていることだろう。
バガンでは、1975年にも同様の大地震があった。現地バガンの関係者によれば、今回以上に、そのときの大地震の時の方が被害は甚大であったという。パゴダや寺院の尖塔はその時に多く損壊・崩壊したという。その損壊した尖塔を、軍事政権時代に修復したというが、その修復作業の質があまり良くなかったようだ。今回の地震で損壊・崩壊している部分の多くが、軍事政権時代に修復した部分が、再度損壊しているケースが多いという。
アウンサンスーチー国家顧問は、今回の地震を受けて、修復作業については性急に行うべきではないとコメントしている。彼女が意図する通り、きちんと時間をかけて損壊状況の調査を行い、修復についても、UNESCOの専門家チーム主導で進めていってほしいものだ。バガン遺跡は、ミャンマー最大の貴重な観光資源であり、無暗に質の悪い修復作業を急ぐべきではない。
日本政府は、JICAのプロジェクトの一環として、バガンの観光開発プロジェクトを推進しているが、今回の地震後の対応についても専門家を派遣するなどして、バガンの価値を維持できる知恵を、UNESCOのチームとも連携しながら提供することが期待される。
それから、ミャンマーらしさを表わすエピソードを一つ。
バガンでは、地震のニュースを聞いた直後から、ミャンマー人が大挙して詰めかけ、ボランティアとして崩壊した仏塔などの清掃作業などに従事しているという。その数は数千人を超えているという。ミャンマーは熱心な仏教徒が多く、現世において、寄付や奉仕活動を通じて徳を積むことに人生の価値の重きを置いている。アメリカと並び、世界で最も寄付活動を行う国民であるという統計データもあるくらいだ。このような心清らかなミャンマー人が、バガンの復興を担うことで、きっと近い将来、美しいバガンの風景を蘇らせてくれるであろう。
宍戸 徳雄
Norio Shishido