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2016.10.11
宍戸 徳雄
昨9月14日、アウンサンスーチー国家顧問兼外務大臣は、政権発足後、初めてアメリカを訪問し、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談した。
オバマ大統領は、その席で、1997年以来アメリカが課してきたミャンマーへの経済制裁をまもなく解除すると明言した。アメリカは、これまで、ミャンマーの民主化の進展をモニタリングしながら、民政移管後の前テインセイン政権時より、段階的な制裁解除というステップを踏んできた。
このタイミングで、ほぼ全面的な制裁解除に踏み切ることは、アメリカが自ら進めてきたミャンマーの民主化への後押しと、その後のミャンマーの政治社会の変革とその実績に対し、アメリカが積極的な評価を宣言する意味を持つ。ミャンマーの民主化の実現は、オバマ政権の政治的な産物でもあり、経済制裁解除の発動は、アメリカがミャンマーとの経済関係を強めていくアクセルとなる。
経済制裁の解除は、いわゆる制裁を規定する国家緊急法の適用を、大統領令の発布により解除するものである。大統領令の詳細な内容は現時点では未発表であるが、過去最大級の制裁解除となり、およそ100を超える制裁対象者の制裁リストからの除外を実施する予定だ。これには、ミャンマー経済において大きな影響力を有していながら、制裁により自由な対外取引関係を構築することが困難となっていた軍との関係の深い政商や財閥なども含まれており、今後、日本企業を含め、ミャンマーにおける実力企業との取引関係の再構築を促すきっかけになることは間違いない。オバマ大統領は、スーチー国家顧問に対し、経済制裁による軍部への圧力の緩和程度について、国内的な政治情勢と彼女の意向を確認・考慮した上で、制裁リストからの除外方針を決定したようだ。もちろん、アメリカ政府関係者によれば、麻薬取引や武器取引、北朝鮮との密輸関係に絡む制裁対象者は引き続き制裁措置を残す方針だ。
さらに、上述の制裁解除に併せ、アメリカ政府は、1989年以降、ミャンマーに対する関税待遇措置の適用を停止してきたが、その関税待遇措置の再適用を連邦議会へ通知、今後、連邦議会立法によって関税待遇措置の復活が見込まれることになった。この関税待遇措置とは、一般にGSP(一般特恵関税制度)と呼ばれ、発展途上国からの輸入関税を減免する措置を発動する制度である。GSPの再適用により、繊維製品など、ミャンマーからアメリカへの輸出取引が大きく拡大することは間違いないだろう。また今回、禁輸措置対象であったミャンマーのヒスイやルビーの取引も解禁となったことは画期的な政策転換と評価できるであろう。
約19年間にわたり継続してきたアメリカによるミャンマーへの経済制裁の全面解除のインパクトは大きい。アメリカ企業による投資が活発化するという直接的な効果だけでなく、副次的な効果として、制裁対象者との取引関係構築に困難をきたしてきた各国企業のミャンマー投資へのインセンティブも大きく高めることになる。この副次的な効果のインパクトは相当程度大きいものになることは間違いない。
アウンサンスーチー国家顧問は、オバマ大統領との会談後の記者会見において「長くミャンマーに経済的損失を与えてきた全ての経済制裁を解除する時が来た」と、アメリカと共に進めてきた民主化の成果をアピールした。ミャンマー経済のテイクオフを制限してきた経済制裁が解除され外部的な経済環境は整った。今後は、現在ミャンマー連邦議会に上程中(本コラム執筆段階で上院通過、下院の承認待ち)の新投資法を含めた国内の経済関連法整備など、経済分野においても、スーチー新政権の取り組むべき課題は引き続き山積している。
宍戸 徳雄
Norio Shishido