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COLUMN コラム

アジア最後のフロンティア 激動するミャンマー

2017.01.04

アジア最後のフロンティア「激動するミャンマー」(33) 『新ミャンマー投資法の枠組み その3 土地使用権の取得手続きの変更』

宍戸 徳雄

外国投資を呼び込めるか、</br>国家の様々な課題に直面するスーチー国家顧問

前回のコラムでは、新投資法の定める投資規制事業の内容とその分類について説明しました。今回のコラムでは、新投資法上その取扱いが大きく変更された土地使用権についての説明をしたいと思います。

ちなみに、昨年10月に成立した新投資法ですが、その後11月にパブリックコメントの募集を行うなどの動きがみられましたが、依然として、新投資法の施行規則は定められていません。そのため、現段階では法律は成立しているものの、実質的に新投資法の運用は開始されていない状態が続いています。

ではミャンマーにおける土地の権利変動についての取り扱いの大原則から説明していきましょう。

まず、ミャンマー連邦共和国憲法は、土地は国家に帰属することを明文で定めています。同時に、憲法は私有財産制を認めており(明文規定あり)、私人による土地の使用形態としては、土地の利用権(占有、使用、賃貸借)が認められ、その利用権の譲渡や、利用権に対する担保物権の設定も可能となっています。
外国企業についても、ミャンマーにおいて土地を使用して経済活動を行う場合には、土地の利用権を取得する必要がありますが、個別法による規制として、外国人の土地の権利取得を規制する不動産譲渡制限法が、外国人による1年を超える不動産賃借権の取得を禁止しています(同法5条)。この規定が、外国企業の経済活動を事実上阻む問題のある規定と指摘されますが、旧外国投資法において、MIC許可と紐づく形で、外国企業の土地使用権を最長で70年(50年+10年の延長を2回まで許容)認めるという例外規定を置いていました。つまり、MICの投資許可を得れば、土地の長期使用権の恩典が享受できるという建付けになっていたわけです(外国投資法が不動産譲渡制限法の規定を例外的に排除)。

尚、不動産譲渡制限法上の「外国人」の定義として、過半数以上の支配権要件が規定されていますが、実務運用上は、外国人による株式の保有が1株でもあれば、「外国人が保有している会社」として権利制限を行う内国人保護解釈が行われていることは留意が必要でした。これは、ミャンマー会社法が、「外国人」の定義を外国人による1株以上の保有会社と規定していることとの実務運用上の整合性を取っていたものと思われますが、この点、現在改正作業中である新会社法法案においては、「外国人」の定義規定が変更される予定となっています。同法案では、外国人による35%以上の支配権要件が規定される予定です。この35%規定と整合性を取る形で、上述の不動産譲渡制限法上の外国人定義規定を既往までの実務運用と同様に内国人保護解釈を行うかは不明ですが、おそらく35%ルールで統一的に運用されるものと予想されます。

さて、新投資法の土地使用権の取り扱いの話に戻ります。
31回目のコラムでも説明しましたが、旧外国投資法に基づく規制事業(会社法上の投資は除く)は、すべてMICの許可を受けなければならないという制度になっていました。同時に、外国投資法上の規制事業においてMIC許可を受けることで、税務上の恩典措置や長期の土地使用権の取得などの恩典を享受することができる仕組みとなっていました。
新投資法では、このようなMICの許可と紐づいた恩典制度は原則廃止され、その許可を必要とする対象事業が限定的なものとなったことは既に従前のコラムでも解説した通りです(新投資法36条、37条)。新投資法は、旧外国投資法上の規制事業に限定して認められていた税務上の恩典や不動産の長期リース権の取得などについて、MIC許可を前提として付随するものではなく、当該規制事業以外の「すべて」の投資に対しても、別途の手続きに基づく承認を得れば、その恩典を享受できるとする余地が生まれました(新投資法37条)。制度的には、恩典の享受と規制事業のMIC許可の手続きが分離・区別された点が大きな変更点と評価できます。現時点で、施行規則が定められていないため、土地使用権の取得のための別途の承認手続きが、具体的にどのような手続きになるのかは未定です。

さらに、新投資法50条は、賃借権の登記義務を規定し、既往まで登記局が外国企業による登記申請を受理しないという実務運用がなされていた状態が、同規定により実務的に変更されることが期待されています。この新規定は、ミャンマー登記法17条が賃借権の登記義務を規定し、同法49条で登記を効力発生要件として規定していたにも拘わらず、登記局の恣意的な運用で、外国企業の登記を受け付けていなかったという明文と実務運用上の祖語の問題として、外国企業の投資を阻む大きな障壁となっていた。今後、新投資法50条が規定されたことにより、登記局の実務運用が変更されるかは予断を許しませんが、外国企業による土地使用権が登記できるようになるかどうかは、ミャンマー投資促進への一つの大きな試金石になるだろう。

宍戸 徳雄

Norio Shishido

PROFILE
株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンス 代表取締役。1997年株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)に入行。法人営業部等歴任し主としてコーポレートファイナンス、外国業務に従事。2012年独立、アジア総合法律事務所のシンクタンク(調査研究機関)である株式会社アジアリーガルリサーチアンドファイナンスを設立、代表に就任。アジア地域の法制度・判例、行政運用などの調査、ビジネス環境・マーケット調査などをメイン業務としながら、数多くの日本企業のアジア進出の実務サポートも行う。民主化直後のミャンマーにも拠点を設置(ヤンゴン)、ミャンマー政府関係者、ローカル企業にも幅広い人脈を有する。2014年にはシンガポールに法人を設立、代表に就任、アジアの起業家を結びつけるネットワークNew Asia Entrepreneur Business Network代表(シンガポール)。著書に「ミャンマー進出ガイドブック」(プレジデント社)、連載記事「沸騰ミャンマー投資1~3」(プレジデント社)などがある。その他金融機関や商工会議所等にて、アジア進出に関わる多数の実務セミナー・講演活動を行っている。一般社団法人日本ミャンマー協会所属。

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