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2017.03.27
宍戸 徳雄
前回のコラムで、スーチー政権が現在直面し打開策を見いだせずにいるロヒンギャ問題について触れました。そのロヒンギャ問題に対する国際社会の非難も日を追うごとに高まっている。
先週、国連の報道官が、ミャンマーによるロヒンギャ族への人権侵害行為について、ミャンマー政府が全てのロヒンギャ族を国外追放しようとしている意図があるのではないかとの警告を発した。ロヒンギャ問題への解決の糸口を見いだせず静観し、指導力を発揮できずに更に事態を深刻化させているスーチー政権に対して、国連も不満と苛立ちを強めている。去る2月の国連人権理事会においても、ミャンマー軍によるロヒンギャ族に対する迫害行為や性的な暴行行為などが行われていることを指摘し強く非難していた。
また、先般、ノーベル平和賞受賞者11人他、著名な人権活動家など23名が連名で、同じくノーベル平和賞受賞者であるアウンサンスーチー国家顧問のロヒンギャ問題への対応が不十分であることを指摘し、国連の安全保障理事会にて、この問題を取り上げることを要請する書簡を送っている。
国連難民高等弁務官事務所が2月に発表した報告書によれば、ミャンマー軍が行っている迫害行為や集団レイプが、人道に対する罪に該当する可能性が高いと指摘。すでに数百人に及ぶロヒンギャの人々が命を奪われており、事態は深刻であると報告している。
これらの国連からの警告や非難への高まりに対し、スーチー政権は、ミャンマー軍によるロヒンギャ族に対する迫害行為を止めさせると発表したが、軍の治安活動が本当に収束するのかは予断を許さない状況である。仏教徒が9割を占める国内のイスラム教徒に対する世論と、ミャンマー政府の統治機構上の軍へのコントロールの脆弱性の問題とが絡み、表面的には民族融和をうたうスーチー政権がどこまで強力な指導力を発揮できるかは、かなり厳しい状況にあると言える。
このような情勢下にあって、今回、国連の報道官が、国家的な民族浄化の意図が疑われると、あえて警告を発したことは、ロヒンギャ問題に対する国連の危機感の表れである。スーチー政権に民族浄化の意図はないとしても、軍の暴走を静観し本気で止める意思を示さないのであれば、それは国連が警告を発した通りの国際的な評価を甘受せねばならないだろう。
今回の国連の警告を端緒とし、国際社会の支援も得ながら、スーチー政権は民族融和政策の実現へ向けて一歩踏み込むべきである。ここに踏み込む国内的な政治的リスクと、静観するリスクを比較斟酌してロヒンギャ問題に対する不作為を、これ以上続け更なる人道に対する罪を積み重ねることは、もはや看過できない局面に至っていると言えるだろう。
宍戸 徳雄
Norio Shishido