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COLUMN コラム

悠久の国インドへの挑戦

2016.07.04

「悠久の国インドへの挑戦」34 忘れ得ぬ出来事:パートナーの突然の死去

藤崎 照夫

インドの茶畑

これまでのコラムでも書いてきましたが、インドの最初の赴任は1年目は赴任直後のストライキに遭いそして大きな赤字でしたが、2年目は幸い当初の計画の12万台生産を年度の最終日に達成することが出来て黒字となり、少額ながら配当も実施することが出来ました。3年目に入り会社の規定に従い、半年に1回の日本での健康診断を受けるために6月初旬に一時帰国することにしました。

会社の規定は健康診断と食料品などの調達ですが、私はこの機会を利用していつも本社の役員、部長、関連部門への実績報告や協力要請の為の打ち合わせを行っていました。この休暇は2週間ですが、私は帰国する前日にラーマンさんに「日本に一時帰国します。機種導入の打ち合わせもやってきますよ。帰国したら詳しく報告します」と告げて、彼は「気をつけて行ってらっしゃい」と言葉を交わしたのが彼との最後の別れとなってしまいました。

日本での滞在も残り少なくなったある日、本社の近くのビルで関係部門の人と私と現地に駐在していた日本人の技術関係の責任者の鈴木氏と合流して会議を行うために出社しました。会議室に入ったらすぐに電話が入り、それを取った本社の担当者が「ラーマンさんが亡くなられたという電話がインドから入ったのですぐインドにお電話して下さい」と私に伝えました。それで私と鈴木氏はすぐ本社に戻りインドのラーマンさんの秘書に電話を入れました。

ベテランの女性秘書が泣きながら「ラーマンさんが亡くなりました」というので、私はすぐ交通事故で亡くなったんではないかと思い彼女に確認したところ、「ハート・アタックです」というのが彼女の答えでした。私はその答えを聞いても信じられませんでした。前述したように彼とは10日ほど前に会話を交わしたばかりで健康そのものだったからです。いずれにしてもインドへすぐに戻らなければならないので、私と鈴木氏の飛行機の予約を依頼しました。

その後本社の副社長、常務、部長などに彼の突然の死去と葬儀への出席を依頼して帰宅し次の日の早朝成田へ出かけました。当時は成田とデリー間はJALとインド航空の2社が1日おきに飛んでいる状況でその当日はインド航空しかなくカウンターに行くと乗客が係員に文句を言っているのが聞こえました。詳しく聞いてみると運悪く機体故障で今日は飛ばないということでした。我々は何としても一刻も早くインドへ戻らなければならないのでどんな便でもいいからとJALの人に頼んでフライトを捜して貰いました。

結果的には成田―シンガポールはシンガポール航空、そこで乗り換えてデリーまでソ連のエアロフロート航空で行くことになりましたが、初めて乗ったエアロフロートは機体、サービス共にこれまで経験した中で最低で当初の予定よりは大幅に遅れて深夜にデリーに到着しました。通常は駐在員の出迎えはないのですがラーマンさんの死去の状況と明日のスケジュールの説明のために二人の駐在員が出迎えてくれて2台の車に分乗して車内で話を聞くことにしました。

彼等の説明によればラーマンさんは会社が終わった後、親友のインド人二人とスポーツジムに行って運動をしていたが暫くした後に「少し気持ちが悪い」と彼が言うので友人達が病院へ行こうと病院へ連れて行ったところ彼は心配をかけたくないと思って友人を待合室に待たせて自分で歩いて医療室へ入って行ったがそこですぐに心臓まひで亡くなったとのことであった。

「ラーマンさんとはこれから将来の計画を一緒にやって行こうとしていた矢先なのに残念でならない。一緒に夢を語り協力し合える大事な人物だったのにと思うと悔しくてならない」というのが当日の私の日記に記載されていました。今回は少し長くなりましたがその次の日以降の様子は次回に―。

藤崎 照夫

Teruo Fujisaki

PROFILE
早稲田大学商学部卒。1972年、本田技研工業(株)入社後、海外新興国事業に長年従事。インドでは、二輪最大手「Hero Honda」社長、四輪車製造販売合弁会社「Honda Siel Cars India」初代社長として現地法人トップを通算10年務める。その後、台湾の四輪製造販売会社「Honda Taiwan」の初代社長、会長を務めた後2006年同社退職。現在はサンアンドサンズ社、ネクスト・マーケット・リサーチ社等の顧問として活躍インド、アジア事情に幅広く精通している。

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