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2016.08.29
藤崎 照夫
四輪車の製造販売の新会社は土地の取得の遅延などもあり、会社設立から2年を経過してスタートしました。それから1年を過ぎたある日外出先から会社へ戻ると総務、人事の責任者であるインド人の副社長のところに人が集まって何か協議をしているので、「何かあったのですか?」と聞いてみると、午前中にCUSTOM DUTY INSPECTOR(CDI)の査察官が数名予告なしに来社して来て所謂捜査令状みたいなものを見せて図面を管理する資料室を詳しく調べてその部屋をシールして立ち入り禁止とし社長室も調べたという報告でした。
彼等の調査目的は我が社が関税を脱税している嫌疑があり調査に来たということを述べたそうです。話を聞いて私の脳裏に浮かんだのは数か月前に日系の大手家電メーカーのインド法人が査察を受けて30億円近い追徴課税を申し渡されたという事実です。当時インドは未だ日本を含めて進出企業がそれほど多くなく、関税も彼らの予定額に達しないので大手企業を狙い撃ちしてそこから税金を絞り取ろうという考えではなかったのかなと推察した次第です。
翌日たまたまデリー日本人会の会長として日本人学校の卒業式に出席したら日本大使も出席されていたので、昨日の査察の件をお話ししたところ、「日本を代表するような企業を狙い撃ちするような事は看過出来ない。大使館としても出来るだけのサポートをするので逐次報告して欲しい」という温かいお言葉を頂きました。私は帰社した後に役員を招集し、今後のビジネスへの影響なども十分検討し、本社とも相談の上正式に税関と法廷闘争をすることにしたいと話をしてパートナーの会長にも報告し了解を取りつけることにしました。
上記のような結論に至った背景は先ず我々は税務当局の言うような脱税行為はしておらず泣き寝入りする必要はないということと、インドは法治国家であるからきちんとした手続を踏み、法廷で争えば我々は負けないという気持があったからですが、内心は「日々の会社運営でも赤字で大変な時に大きな宿題を与えられたな―」というのが本心でした。それから今後の対応について以下の内容について具体的な打ち合わせを行いました。
1)本社への本件の報告と協力依頼
2)大使館への報告連絡と協力依頼
3)インド政府並びに関係官庁へのアプローチ
4)関税問題に詳しい実力弁護士の選定
上記1)と2)については私自身が中心となって動き、3)と4)についてはパートナーに助けてもらうことにしました。1)の本社への報告は我々の準備が出来次第訪日しようと考えたのですが、インド人副社長から「他の日系企業の責任者が税関問題が発生した時急遽インドを離れたら、問題から逃げたと報道されたケースもあるので上記ICDのコミッショナーに一応事前に連絡しておいたほうが良いと思いますよ」というアドバイスがあったのでそのコミッショナーに直接電話して「今回の査察の件で日本の本社に報告に行きたいので数日インドを離れるのでご了解頂きたい」と伝えたところ、彼はなんと「You are criminal. We can do whatever we want」返答し私の自宅調査でも出来るんだと恫喝して来ました。彼の声は今でも耳に残っています。
一方で査察の約10日後パートナーに依頼していた弁護士候補とインド人副社長と面会に行くと、この弁護士は元税関の幹部職員で退職後弁護士として税関関係の案件で実績を上げているそうで、「知らないことは知らないと言え」とか「ホンダに押収された図面の価格を証明する書類を提出して貰え」とか色々矢継ぎ早に要求が出て来ましたが、このくらいの迫力がなければ税関と太刀打ちするのは難しいのだろうなという感想を持ちました。
この問題はある意味では会社の存続にも関わるような重要なものでしたので数回に分けてお伝えしたいと思います。
藤崎 照夫
Teruo Fujisaki