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2016.09.26
藤崎 照夫
今月はこの問題がどのように展開して行ったかについて話を進めたいと思います。この脱税問題に関しては5つの関係する部門や人達がいました。
それは(1)この問題の当局であるICD、(2)我々の事業の認可者でありICDを統括するインド政府、(3)日本大使館、(4)弁護士事務所、そして(5)日本本社です。インドに進出している日本企業も年々増加して来ていますので、それらの企業の方達のご参考になればと考え、上記の5つの関係先との交渉や、具体的にどのように問題解決に挑んだかについてこれから少し詳細に述べていきます。
ICDからは査察から2週間後に呼び出しがあり、インド人副社長と人事・経理担当の日本人駐在員の二人が出向いたところ、更なる資料の提出とProvisi-onal Duty(仮払い一時金)を支払えと要求があったので、「トップと相談の上回答する」と答えて帰社したとのことなのですぐ弁護士に相談し文書で回答することにしました。翌日ICDのアシスタント・コミッショナーに会社の担当課長が文書を持参し「現時点では仮払い一時金を支払う段階ではないので後日我々としての正式な回答をして裁判の結果支払いが確定したらそれに従う」旨の説明をしたところ、アシスタント・コミッショナーが怒り出し「社長を召喚する」と言っていますとの連絡がありました。
弁護士とパートナーにすぐ連絡を取ったところ、やはり早急に日本から我々の主張を裏付ける資料を提出してもらう必要があるという意見でしたが、最終的には召喚状が出ているのに無視して日本へ行ったら拘留される危険性もあるという意見が出され、翌日ICDのオフィスを訪問しアシスタント・コミッショナと面談するすることになりました。当日は宣誓文みたいな内容に従い一つ一つ文書形式で答えて行くということになりましたが、やはり会社の責任者としてのコメントの重さを頭の中で考えながらのQ&Aだったので流石に疲れましたが、昼食休憩を挟んで終わったのは夕方の6時過ぎになりました。
次の日には更にコミッショナーとの面談があり、またICDのオフィスを訪問すると彼からProvisional Dutyを日本円換算で約2億円支払えと言う話が出ました。こちらから「支払いの法的根拠が分からないから言う通りには出来ません」と回答すると、彼は法令を我々に見せて「法律に違反しているから我々はどんな措置もとることが出来る。最も厳しい場合7年間の投獄も出来るし、工場の生産をストップすることも出来る」と告げました。
読者の皆様もご理解頂けると思いますが、メーカーとして工場の生産をストップするということは即事業の継続が不可能になるといういわば死刑宣告のようなものです。大変厳しい判断を求められる状況になったので同行してくれていたインド人副社長、日本人駐在員とも相談し、その場で弁護士に電話したところ「彼等の言う金額は吹っかけている部分もあるだろうから、先ず2千万円位から交渉したらどうか」というアドバイスでしたが、余り低い金額だと話がこじれることも予想されたので、我々の現在の厳しい経営内容を縷々説明し、最終的には1億2千万円相当の金額で決着しました。
勿論この金額支払いは一時金ですから将来裁判になり我々が勝訴した場合は元金プラス金利で返還してもらうという文書を交わしました。ICDから会社に戻った後「今回の一連の私の判断や行動は会社の責任者として間違いはなかっただろうか?」と何度も反芻して考えました。この日のICDとのやり取りはそれから続く長い闘いの序章でした。次回はインド政府との折衝を含めて順に話を進めたいと考えています。
藤崎 照夫
Teruo Fujisaki