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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2015.03.23

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第19回)駐在員心得(その5)

菅野 真一郎

(1)現地法人の運営

北京国立劇場

前回まで4回にわたり中国人職員のヤル気、能力をいかに引き出すかについて述べてまいりました。今回は、中国人職員との相互理解、相互信頼を築くためのコミュニケーションのポイントについて述べてみたいと思います。

2)中国人職員との普段のコミュニケーションが大事

①中国語を修得する

中国で仕事をする場合、中国語が話せることは大事なポイントであることは言うまでもありません。しかし英語と違って学生時代身に触れる事が少ないマイナーな外国語であり、中国駐在を命ぜられて、急いで日本にいる間に基本だけを詰め込まれるケースが多いと思います。やむを得ない事です。大事な事は、少しでも中国語を身に付けて、中国人職員とのコミュニケーションを持とうとする心構えではないかと思います。

中国語は発音や声調(普通語は4声、広東語は9声など)がとても厳格、精密な言葉だと思いますので、発音の基礎はしっかり覚えておくべきだと思います。駐在して日常いつも中国語に触れて中国語を物にしようとする意欲があれば、半年から一年の間には片言の日常会話が通じるようになって、むしろ中国人との会話が楽しくなってきます。

標準語と方言どちらを覚えるべきか、皆さんが悩まれる選択です。
若し赴任地が決まっていて初めて中国語を覚えるのであれば、思い切って赴任地の方言を覚えるのは実益があります。と言うのは、中国人は皆ふるさと自慢の人達で、自分の土地が一番良いと思っています。従ってこれから一緒に仕事をする外国人が自分達の方言を覚えようとしていると知ったら、いっぺんに親近感を覚えること請け合いです。

私の場合40歳で初めての赴任地が上海でしたが、標準語を聞きかじった者にとって上海語が難解だったことと、いずれ首都北京で働く事もあろうと思って標準語を覚えるのに精を出しました。二度目の赴任も上海で、しかも上海は浦東開発が始動し、中国の経済活動の中心になるのは間違いないという雰囲気でした。最初から上海語の修得に力を入れておくべきだったと反省しても、年齢もいっていて後の祭りでした。上海支店時代、復旦大学に留学して少し上海語が話せる日本人部下がいましたが、中国人職員との会話が実に和やかだったのは、当人の人柄だけでなく、彼の上海語も大いに与って力があったと思います。

②気配り、気働き―地味な部署でがんばっている人に手厚く

中国人との信頼関係の構築には気配り、気働きが大事な事は既に述べましたが、とりわけ同じ釜の飯を食う間柄の駐在員は、運転手、守衛のおじさん、使送のおばさん、給仕のおばさん、掃除のおばさん等地味な部署で頑張っている人達への目配りは欠かせません。お菓子を配る時も必ず員数に入れるとか、職員の誕生会にも必ずカウントするとか、社員旅行や新年会、会社の周年行事にも必ず参加を呼びかけることです。
実は人口大国中国では、こういう人の親戚にもとんでもない高位の要人や市政府のお偉方がいたりするケースがよくあります。冠婚葬祭の時にはいろいろな会話が飛び交う中で、外資企業やその経営者の評価などは格好の話題になります。
そのような場所で良く言われるか、悪く言われるかは大きな差になります。日頃からの接し方が如何に大事かということだと思います。

中国が資本金3000万ドルの統括会社設立を奨励し始めたころのことです。日中投資促進機構の訪中ミッションの大勢の参加者の前で、対外経済貿易担当のW副総理が、ある大手企業の会長に、まだ例がなかった国内販売権付の営業許可証を手交したとき、当該会社職員の会長通訳の中国人Jさんに「よく国内販売権を取得できましたね」と申し上げたら、Jさん曰く「W副総理は私の父の教え子でした」。

一つご留意頂きたい事は、運転手は立派な技術者だということ(中国ではトラックの運転手は荷物の積み下ろしはしない)、中国で仕事をする以上車での移動は不可避ですので、運転手が駐在員やその家族の生命の安全を担っているということをよくご認識いただきたいということです。
従って運転手とのコミュニケーション、良好な関係構築は駐在員の大事な心構えです。
さらに、運転手は大変な情報通です。中央要人が地方視察する時の中央要人の名前(身辺警護のために事前には公表されないことが多い)や本当の宿舎を知っているのは実は運転手という事例は沢山あります。中央の要人の宿舎は、公表されているのとは別の宿舎(裏道でつながっていたり、トンネルでつながっている例はよくあります)というのも中国ではほぼ常識です。

中国では地方によって身体障害者雇用を外資企業に義務付けています。従業員総数で人数が割り当てられます。大部分の外資企業は所定の費用を支払って雇用を回避していますが、むしろ積極的に身体障害者を雇用し、相応しい部署に配属することも検討すべきだと思います。玄関の受付、使送や給仕或いは訓練で技術を教えて根気の要る作業に携わらせている例等があります。中国の行政機関から高い評価を得て社会的存在感が高まったり、自社の職員から「自分の会社は国有企業に負けないくらい社会貢献をしている」と誇りに思われ、社員の忠誠心の高揚に役立つことになります。

前にも触れましたが大手OA機器メーカーの中国総代表も勤めた長年の知人は、休暇を利用して自費でアメリカに行き盲導犬訓練士の資格を取り、第二の人生に備えています。自社の受付には軽度の身体障害者の女性を配属しています。いつ訪問しても明るい笑顔で応対してくれるのが印象的です。
この知人は万事人に親切で面倒見が良いのが身上です。
20年前の自社初めての中国プロジェクトである大連工場の採用試験の模様を某都市銀行の社内報で紹介した文章に、「東北地方の農村から出てきて不合格になった青年が、いつまでも会場を離れず一人残っていたのが 今も忘れられない」と痛切な気持ちで書いています。
中国の行政機関からも頼りにされ、日本商工クラブの仕事で商務部を訪問しても副部長などの高官との面談が実現するといった具合で、仕事の面でもうまく廻っている好例です。

ある北京の日系大手スーパー(日本の百貨店規模)の総経理も気配り、気働きの人でした。年3回行う「社内労働表彰」の時、アウトソーシング先から派遣され一生懸命働いている掃除のおばさんを表彰(ひと月分の給料相当の賞金)したところ、以前にも増して床磨きに精を出して、他の派遣労働者にとても良い影響が出ているということでした。

社内表彰に当たってぜひ実行していただきたいことは、必ずその家族(奥さん、ご主人、ご両親のいずれか)宛に、総経理直筆サインのある感謝状を手交することです。表彰された人のメンツが立って、以後一層仕事に励むこと請け合いです。中国人が一番気にするのは、身内(家族、一族郎党)に対する面子ではないかと、私は思います。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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