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2015.05.18
菅野 真一郎
前回は、「中国とは…」とか「中国では…」といった言い訳はもはや時代遅れで、中国駐在員の最大ミッションは、販売シェアの拡大、本社収益への貢献であり、エキサイティングな中国で働くことを自分の成長の糧にしようとする前向きな考え方が大事であると申し上げました。
今回は中国駐在員として本社への現地報告も、大事なミッションであることを申し上げたいと思います。
中国に赴任したらすぐに本社への定期的報告を書く習慣を身に付けて頂きたいと思います。ポイントはその頻度です。月一回は少な過ぎます。少なくとも二~三週間に一度は書いて頂きたい。中国での出来事をまとめて書こうとすると相当なエネルギーを必要とし、骨が折れます。経緯を説明するだけでも紆余曲折があって、一筋縄ではいきません。案件の経過は出来るだけ頻繁に簡潔に報告し、結果が出た時は、総括し教訓等をまとめて報告することです。
また日本で話題になっている中国事情についても、駐在している立場からの率直な感想等も本社や経営層には大変参考になります。後で振り返ってみると駐在員の感想が冷静で正しかったという事例は沢山有ります。
2005年や2012年の反日デモもその一例かもしれません。2005年の場合、日本では最も激しいセンセーショナルな場面をテレビで繰り返し放映しますが、現地の印象は、局地的で中国としてはそれほど大規模ではないというものでした。
2012年の上海の反日デモでは、デモ隊が数十人ずつ当局のバスに分乗して、日本総領事館まで行き、デモ行進が終わるとまた当局のバスに乗り走り去った現象を見て、日本のマスコミが「官製デモ」「やらせデモ」と報道しました。現地の私が親しくしている上海人経営者が上海市政府の高官から聞いた実情は、2005年の過激な反日デモの再来を懸念した上海市当局がデモをコントロールするため、いろいろ工夫した結果というものでした。
但し、デモの真の動機は反日が契機にはなったものの、社会の歪み・矛盾に対する民衆の強い反目が根底にあるので、当局もむやみに抑え込むわけにもいかないという、北京駐在10年弱のある電機メーカー中国総代表の分析が的を得ていたのではないかと思う訳です。
他方、現地では日本のマスコミにも出ない重要情報も入手可能ですが、よほど慎重に取り扱わないと墓穴を掘りかねないことにも注意を払う必要があります。
私が初めて上海駐在してしばらくした年末、中国の某国有銀行が好収益を背景に、全行員に年末特別ボーナス(当時は年1回春節のボーナスが全国共通)を支給したことが為政者の逆鱗に触れ、行長(日本の頭取)が更迭され、中国国内でも秘密扱いでした。上海に来た本社の役員にこのことを伝えたところ、当該役員が帰国後某大手新聞にリークし報道されました。これは私が当該国有銀行の親しい幹部から直接聞いた情報で正しかったので、問題にならず、むしろ出入りの記者の特ダネになった例です。これには後日談があります。更迭された行長のボーナス金額が若手職員の3~4倍程度だったことがわかり、そのあまりの低さと謙虚さが行員の同情を集め、当該行長はその銀行から特別な待遇を得て優雅な余生を送っているということです。
別の例は、引退したものの権勢を誇る元国家指導者が「内臓の病気を患い余命短い、主治医が自分の父親の主治医と同じ医者なので間違いない情報」と、勤めていた中国現法の長年の幹部から言われました。現地情報として経営トップに伝えるべきか迷ったのですが、あまりに高位の国家要人だったので、まず情報収集に努めました。そういう中で当該情報の信ぴょう性を疑う2~3の事象が出てきたので、報告はしませんでした。既に数年たち当該要人は今も健在ですので、口外せずに良かったと胸をなでおろしています。なお当該国家要人死亡説も日本の大手新聞に報道され、その新聞社は訂正・謝罪に追い込まれたことがあります。
ことほど左様に、中国関連情報はいくら用心しても用心し過ぎることはありません。留意していただきたいと思います。
今の世の中、中国情報に無関心な経営トップなどおりません。皆さん大変強い関心を持っております。中国の現地報告は、本社では関係部門の外に、必ず会長や社長等の経営トップに上がる仕組みにしていただきたいと思います。
経営トップは、何回かに一回は現地駐在員にコメントを返して頂きたいと思います。現地報告をよく読んでいるぞというサインになり、現地駐在員もヤル気が出てきます。
中国と日本の時差は一時間、従ってたまには経営トップから現地駐在員に対し、電話の一本もかけていただきたいものです。
大手自動車メーカーの上海所長が、今では財界の大御所である会長から夜中にカラオケから電話がかかってくると、嬉しそうにぼやいていたのを印象深く聞いた事があります。
「〇〇君、元気か、持病の〇〇はどうだ」。銀座のカラオケに行っても、一介の事務所長に電話を入れる気配りに、やる気が起きない人がいるでしょうか。
この会長は、社長時代の1997年7月、アジア通貨危機が発生した時、真先に自分が長年勤務したことがあるアジアの現法に電話を入れて、「ローカルの首を切るんじゃないぞ」と指示をした話を、別の機会に、アジア通貨危機当時当該現法にいた本社部長から直接聞いたことがあります。ここでも気配りの大切さを垣間見たような気がしました。
(つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno