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2015.11.30
菅野 真一郎
北京にある日本の大手スーパーの中国合弁GMSの2号店を、開店して数年を経た10月のある土曜日の午後見学する機会を得ました。
北京の当該合弁は1997年資本金数千万ドルで設立された日中合弁の小売業で、中国で初めてチェーンストアの全国展開を認められました。出資構成は、日本側大手スーパーと大手商社でマジョリティを有し、中国側商業公司がマイノリティです。既に北京市では1998年の1号店を皮切りに多店舗展開を進めています。
見学した2号店は2001年12月開店、売場面積21,000㎡、平日買上客数17,000人(これは日本の年商100億円店舗の年末商戦時の一日買上客数に該当するそうです)、見学した土曜日は午後3時現在レジ通過者数3万人、入店者数は9万人を越えているという盛況振りでした。
従業員数はテナント店員、清掃会社等アウトソーシング社員も含めて3600人、これを日本人店長と中国人副店長(各店共に副店長には中国人女性を登用する方針の由)が引っ張っています。
ちなみに既設5店舗の店長は日本人3人、中国人2人(内女性店長1人)、副店長は5人共中国人女性で、女性の抜擢・活用が眼を引きます(現在では店長、副店長とも中国人が大部分)。各店舗の日本人駐在は一人で、ほとんど全て中国人で運営しているということです。1号店開店以来わずか7年でここまで現地化をすすめていることに驚きを禁じ得ません。
説明・見学案内をして頂いた日本人総経理は一号店に机を置いていますが、常時各店舗を巡回監督し、各店で週一回全体朝礼にも参加し訓示する等率先垂範、実に精力的に活動されている様子が強く印象に残りました。
総経理は1997年3月、内陸の省都の合弁GMS立ち上げのために赴任し、1号店の黒字化を実現して2001年北京の総経理に就任された中国ビジネスのベテランです。参考になるお話のいくつかをご紹介したいと思います。
職員訓練のポイントは3点。
頭を下げて挨拶する習慣を身につけさせる。
全体朝礼(600~700人参加)は月、火曜日(火曜日は総経理自身が参加)、部分朝礼は水、木、金曜日。
「週間計画書」の作成とそのフォローのために必要。
北京常駐の日本人董事長、総経理の経営哲学とも言うべきもので、創業者の名誉会長の「お客がして欲しいことをする」「売る立場だけにならず、買う立場になってみる」の観点から、「三感の実践」即ち「感動する売場・商品、感激する接客・サービス、感謝する礼節・心情」を説いています。ちなみに名誉会長には「商いの心くばり」という著作もあります。
職員のヤル気を出させる工夫としては、自分に跳ね返る給与・賞与システムがポイントと言われます。月次給与のうち、固定給部分は約半分で残りは毎月査定の行なわれる月次賞与部分となっており、月次賞与は毎月の査定により50~150%に変動します。更に業績賞与の年間表彰が行われ5等から特等までのランクがあり、特等は本部長クラスの業績賞与を超えるそうです。
毎年2月、5月、10月には労働コンクールが催され、毎回1万元の予算を計上しています。教育訓練が行き届いているために職員の引き抜きが悩みのタネでしたが、2003年3月以降退職者は減ってきたそうです。総経理は「将来性のある会社ということを認識させることが大事」と言います。総経理自身は、中国人職員から後姿を見られていることを絶えず意識して働いていると言われます。職員に対する目配りでは、アウトソーシングの掃除のおばさんも大事にしている、労働コンクールで表彰したら大変喜ばれ、店内特に食品売り場が以前にも増して清潔・きれいになったと語っておられます。
見学案内の途中でエスカレーターの登り口にあった手押しのカートをさっと片付け、エスカレーターを登りながら、付近に居る従業員に対し、日本語で「カートは元あった場所にすぐに戻すようにしないとダメよ」と大声で注意しました。言われた3~4人の女子職員は日本語の意味が判らないらしいのですが、総経理から大声で注意されたというのですぐに集まり何を注意されたのか話し合っている様子がとてもほほえましく見えたのと、日頃の総経理の厳しい指導振りと求心力の高さを垣間見ることが出来ました。
董事長によれば、中国人職員は「当社の教育訓練は人民解放軍以上の厳しさ」と言っているそうです。
最後に「中国とはやればやっただけ効果のある社会」という総経理の述懐には実感がこもっていました。
(つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno