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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.02.01

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第30回)駐在員心得(その16)

菅野 真一郎

(6)現地化推進

湖南省の風景

3)人の現地化(その7)

これまで6回に亘り、主として「人の現地化」の必要性といくつかの日系企業での工夫の事例について述べてきました。
「人の現地化」のキーワードは、松下幸之助氏の経営を語る有名な言葉「事業は人なり」です。人材教育と登用、それによる忠誠心の涵養であると思います。

例えば、輸出依存が低く、リーマンショック時の欧米経済低迷の影響が小さいものの、沿海地区との経済格差が大きく経済発展が遅れていた内陸部に、1990年代半ばから進出を決断して積極的に店舗を展開し、今では日本の本社への配当等でグループ収益に寄与している流通業2社も、経営トップから直接伺った言葉は正に「事業は人なり」でした。

四川省成都市に1997年11月1号店を開設し、今では6店舗を展開するイトーヨーカ堂の立ち上げ時の現地責任者を務めたA専務(当時)は、徹底した店員教育を行いました。A氏曰く「中国人職員は、『イトーヨーカ堂の店員教育は中国人民解放軍よりも厳しい』と言っている」。にもかかわらず、成都で5号店がまもなく開店という時期に、私はある大手電機メーカーの幹部研修のため成都を訪れて、その店舗の前を大型バスで通りかかった時、店舗の大通りに面した2階の窓に十数メートルにわたって大きな赤い横断幕が掲げられ、中国語で『A先生のご来訪を歓迎いたします』と書かれているのを目にしました。帰国後、イトーヨーカ堂の顧問になられて関連会社の社長に就任されていたA氏を訪ねてこのことを報告すると、A氏は「開店前の店員教育のため成都に出張した時のことでしょう。恥ずかしいからやめてくれといっても、彼らは言うことを聞いてくれない」と照れながらも嬉しそうに中国人職員の成長振りを語ってくれました。

2011年10月、創業者の名誉会長が久しぶりに訪中され「成都を見て感激した」「みんな見てくるべきだ」と言われ、グループの役員がかわるがわる成都視察に行っているという話を聞いて、その直後名誉会長にお会いした折に「何に一番感激されましたか」とお聞きしたところ、たった一言「中国人幹部が育っているわな」とおっしゃられました。やはり経営者が見るところは人材なんだなと思いました。

滋賀県を地盤とする平和堂も、毛沢東の故郷・湖南省長沙市と株洲市に4店舗を展開しています(1号店は1998年、長沙市)。社長とは1990年代半ば、進出検討時に何回かお会いし中国進出の留意点などについて意見交換しました。初めは様々な困難に遭遇しご苦労されたのですが、2011年12月、久しぶりに本社を訪ね社長にお会いした時、開口一番「中国事業がようやく孝行息子に育ってきた」とおっしゃいました。社長曰く「現地のS総経理は1号店の時社内募集で自ら手を上げて赴任、以来十数年、家族を上海に住まわせて頑張っている」「社員教育を徹底、幹部を育ててきた。ただし幹部には女性が多い。人事部長も財務部長も女性」。私は「我々の銀行でも、その他の多くの会社でも、中国では女性幹部が多いのが特色です。女性は優秀だし、粘り強いと思います」と申し上げ、社長も納得されました。

ところが日本政府による尖閣諸島の国有化後の2012年9月の全国的反日暴動で、当社の3店舗が大きな被害を受け、その模様がテレビでも報道されたあと、再び社長を訪ねました。社長は9月下旬、現地を視察した時の様子を語ってくださいました。

「デモの様子をテレビで見て、実際の荒れた現場を見て、大変なショックを受けた。・・・『ガイアの夜明け』でも放映されたように、現地従業員の営業再開への意欲や熱意に背中を押され、営業再開を決意した」「中国で確立した平和堂ブランドや人材等全てがお金に換算できない財産。従業員1,700名は一人もやめていない。暴動前から日本で研修している中国人職員も動揺せずに頑張っている。人材育成や信頼関係構築の大切さを痛感している」。

テレビ東京の『ガイアの夜明け』では2回に亘り現地の様子が詳しく放映され、ご覧になられた方も多いと思います。S総経理は「時間を惜しんで復旧に走りまわる中国人職員からパワーを貰った」と言われ、復旧後の2回目のテレビ放映の最後では、「売り上げ減少を反日運動のせいだけにしてはいけない。お客様に満足していただける商品とサービスに絶えず心がけなければ、中国では勝ち残れない」と言われました。

社長の話も、S総経理の話も、中国ビジネス成功の秘訣を簡潔・的確に言い表していて、とても印象深いものがありました。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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