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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.03.22

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第32回)駐在員心得(その18)

菅野 真一郎

(4)現地化推進

中国雲南省 鹿谷湖の風景

⑧成功要因のまとめ(その2)
(前回のⅴ―事業運営は改善・改革の連続、絶えず変革を目指している―のつづき)

岐阜県本巣市のステンレスタンクのトップメーカー森松工業は1990年10月、上海浦東新区に外資合弁第1号として進出し、パートナーとの軋轢から独資に切り替えたり、中国企業参入でステンレスタンクの価格競争に陥るなどの困難を経て、今ではステンレス、チタン、ジルコニウム、ニッケル合金などの特殊金属の溶接加工技術を活かした大型製缶品メーカーとして、従業員4,000人を擁する企業に成長しています(日本本社は500名)。
一貫して中国の高度なエンジニアの低コストに着目、中国人職員の教育、登用を追求、中国産業の発展分野に果敢に挑戦して、多様な製品に対応できる溶接工マネジメントシステムを構築しています。石油化学、エネルギー開発、資源開発、シェールガス開発、原子力発電所の熱交換器や使用済み燃料の冷却装置などを手がけています。2011年にはスウェーデンの製薬機械メーカーを買収、中国人エンジニアが高精度の3次元ソフトを駆使して従来の機器単体製造からモジュール化(機能別製造ユニットの組み立て加工)にも進出して、製薬プラント、化粧品製造プラントなど高付加価値化を推進しています。
これらの中国工場全体を指揮しているのは中国人総経理、各部署のトップも中国人技術者、しかも女性も副総経理以下随所に登用されています。今ではステンレスタンクの比率は2~3%になっています。

(ⅵ)教育や人事考課は厳格で、「信賞必罰」「能力主義」を追求している。

ただしこれは誰でもいつでも実行できるわけではなく、責任者は従業員から絶大な信頼と人望が無いと難しいことだと思います。従って相応の時間を要すること、決して他社の真似をして単純に導入できるものではなく、夫々の会社の実情を踏まえて慎重に対応すべきであることは当然です。
私は基本的には、人材とは育てるもので、引き抜いて出来るものではないと考えております。

(ⅶ)他の成功事例にも必ず例外なくみられる特徴ですが、信頼のおける忠誠心の高い中国人幹部が存在する(育てられている)。

例えば
森松工業―西松江英総経理(現在森松工業本社の取締役兼務)
福岡ニット―史丹霞工場長(―後に副総経理に昇格)
サッポロビール―高智明総経理

中国で事業を行う以上、このような忠誠心の高い幹部職員無しに日本人中心で運営することはまず不可能だと思います。
このためには、会社は中国人職員と共有できる経営理念を掲げ、会社の製品やサービスが、中国社会の発展や中国人の生活向上に役立つという社会貢献の認識が無ければなりません。中国はじめ発展途上の国では、地域によってはいまだに生産・収穫された食糧の三分の一は、生産地や消費地の前近代的保管設備や輸送手段の遅れから腐敗してしまうという現実があります。
従って運送会社の職員は、自社の近代的保管設備や輸送手段が、必要な物資を必要な場所に運ぶだけでなく、自国の食糧自給率の向上に役立つと認識できれば、仕事に精が出て家族にも胸が張れることになります。
1991年、私が勤める銀行が上海で解放後始めて外銀として支店開設が認められ、初代支店長で赴任したとき、支店運営方針の柱として、日本企業の中国進出サポート、進出後のトラブル処理サポートのいわゆるアドバイザリー業務を掲げ、日本語要員の充実、アドバイザリーのノウハウ蓄積に注力しました。外国銀行の職員として一生懸命働けば、中国政府の外資導入政策の推進に役立ち、ひいては中国経済の発展に貢献でき、家族にも胸が張れることになるという狙いでした。新しいビジネスモデルの構築でもありました。

(ⅷ)中国人材をローカル人材としてではなく、グローバル人材として育て、中国事業のみならず、企業グループ全体の中で活用している事例も出現してきている。それが魅力でまたよい人材が集まるという好循環を作る。

中国現地法人の中国人幹部が日本の本社の役員に就任して、グループのグローバル展開の一翼を担うケースも出てきています。あるいは、チャイナ+oneで、ベトナムに新しく工場を作るときに、上海工場で幹部に成長した中国人7~8人がベトナムに出張して立ち上げ、そのうちの一人が引き続きベトナム工場の責任者として頑張っている電子部品メーカーの事例もあります。

(ⅸ)社歴が長く優良納税企業でもある成功企業は、地元政府のトップや行政機関との関係も良好で、事業運営上の困難に遭遇しても、行政からの支援を得られやすい関係が構築できている。

中国企業同様、外資企業でも納税で地元政府の財政に貢献することは、関係する皆から評価される一番のポイントであり、そうであれば、その外資企業で働く中国人従業員も、胸を張って働くことになる道理でもあります。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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