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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.05.16

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第34回)役員訪中成功のために―現地駐在員の対応の心得(その2)

菅野 真一郎

(1)訪中の意義

大雁塔(西安)

②年1~2回の“定例訪中”
ⅲトップ交流――行政府

前回はトップ交流の民間の場合について述べました。今回は行政府との交流について述べます。社会主義、全体主義、官僚主義国家中国でのビジネスでは、行政府との交流は情報収集や便宜供与(を受ける)、プロジェクト批准促進、トラブル処理サポート(を受ける)などいろいろな場面で、重要なポイントになります。官僚主義中国では肩書のバランスが大事ですから、役員訪中は行政府の上層部との人脈構築の面でも貴重な機会になります。

交流を目指す行政府では、どんな人物に会うべきか。該当部門担当副市長(本件では、建設、都市計画担当)、対外経済貿易部門担当副市長、該当部門行政組織主任(本件では当時の建設委員会主任、現在の住房和城郷建設管理委員会主任)、該当部門関係大学学長(中国では学術交流や産学官共同が活発――本件では建築専門大学の同済大学や上海交通大学等)が考えられます。
もちろん市長に会えれば理想的ですが、初訪中でいきなり市長面談は困難です。訪中を重ねる中で、例えば参加したシンポジウムでの印象深い発言や報告が契機になり主催した市長と親しくなる例などがあります。
従って、中国ではシンポジウムやセミナー、国際会議などに招待されたり、基調報告やスピーチを要請されたら、極力受けることも大事です。展覧会への出展要請も真剣に検討する価値があります。

中国の行政トップと親しくなると、いろいろ宿題が出ることがあります。
これは中国の将来取り組むべき政策課題と密接に関係していることが多く、中国社会・経済の実情把握に大いに役立つことがあります。
1990年日中投資促進機構設立後初めて中国側カウンターパートの中日投資促進委員会秘書長(事務局長)一行が来日した折、私は日中投資促進機構事務局長として1週間フルにテイクケアしました。日本での企業訪問の希望をお聞きしたところ、「グループ化、集団化に成功している企業グループの本部を訪ねたい」という回答でした。これはその数年後から活発化した国有企業改革の一環である企業集団化の検討時期と符合していると思います。
我々は秘書長一行を、某電機関連総合メーカーの本部にご案内しました。グループ全体の企業統治を中心にわざわざご準備いただいたパネルの見学、詳しい説明、質疑応答が2時間にわたって行われ、秘書長一行から大変感謝されました。

1990年代前半から、中国の国有商業銀行首脳と面談すると、各行首脳からは必ず日本の銀行貸付金のリスク管理手法や日本の不良債権の規模について熱心な質問がありました。
1997年初めには、金融担当副総理から、日本の金融機関のリスクマネージメント及び不良債権処理についてのレポートの要請もありました。今では周知の事実になっている中国の膨大な不良債権処理検討の山場だったと思います。相手は朱鎔基副総理です。

1990年代半ばに、私が勤めていた銀行の首脳が中国人民銀行の首脳と面談した折に、日本の住宅金融制度に関するレポートの要請がありました。当行首脳は住宅金融の前提として住宅供給制度も知りたいのではないかと考えて、日本住宅公団の仕組み・役割等も含めてレポートを作成し説明しました。人民銀行から大変感謝されました。後に立案された個人消費拡大のための商品住宅普及政策の準備の一環だったと思います。

逆に我々はトップ会談に立ち会って、中国側の発言内容を克明に記録して分析してみると、中国の首脳者の問題意識が把握出来て、そのレベルの高さに敬服すると同時に、解決策や協力事項を提案するヒントが得られることがしばしばあります。行政トップとの交流が大事な由縁でもあります。

役員訪中の際日本大使(上海は総領事)や訪問地の日本商工クラブの会長を訪問し、最新の現地事情をヒヤリングすることも大事だと思います。将来合弁の調印式や開業式などへの大使(総領事)出席を確保する布石にもなります。大使や総領事の出席は式典に中国側のハイクラスの要人をお招きする大事な条件(日中双方出席者トップの肩書のバランス)でもあります。

行政府のトップと面談する際に注意することがあります。それは日本からわざわざ社長や副社長が行くのだから、市長や副市長に会うようにセットするようにと、本社から強い要望があります。もっともなのですが、中国は外国要人との面談より重要な共産党関係の会議などの行事や、上部機関からの突然の呼び出しなどは日常茶飯事です。
まず行政機関のトップに会いたければ、先方に会える日時に訪中すれば会える確率が高まります。それでも先方は突然の予定外の事態で会えないケースがあることは本社の方々にはご理解頂きたいのです。決して現地駐在員の怠慢ではないのです。

ただし次のような事例があるのも中国です。
日中関係が中国の度重なる核実験や、台湾海峡での中国のミサイル演習などで緊張関係が続いていた時期、中国側は政経分離で、日本経済界との交流を活発化したいと考えていた時期です。2人の副総理がそれぞれ別々に、日本から訪中した日中投資促進機構の会長、副会長一行約10名と面談する厚遇を示した上にさらに、「帰国を一日延長してくれれば総理も面談したい」という破格の申し出がありました。会長は「いずれもお忙しい日程を無理に調整して訪中して頂いた副会長に重ねて無理なお願いできない。2人の副総理にお会いできたので十分感謝します」と言って、予定通り月曜日の午後便で日本に帰国する予定でした。ところがすぐに中国側から「月曜日の午前中に総理が面談したい」と言ってきて、結局総理とも面談して、予定通り月曜日午後帰国した一件がありました。
日本の訪中団メンバーの顔触れと、訪中目的の重要性(*)から、何としても中国側のメッセージを日本政府や財界に伝えたかったのだと思います。日頃の緊密な交流がいざというときに大いに役立つ一つの事例ではないかと思います。

(*)三峡ダム建設に伴う長江上中流域開発協力の中国側組織立ち上げ式への参加。日本側は日中投資促進機構内に「長江上中流域開発協力委員会」を立ち上げ済み。

(つづく)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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