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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.08.08

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第37回)役員訪中成功のために―現地駐在員の対応の心得(その5)

菅野 真一郎

(6)見学場所

多忙な公務の合間を縫っての上海訪問ですが、次に述べる場所のいくつかは視察していただきたいと思います。該当する業種に関係の深い場所を優先して見学するのはもちろんですが、中国や中国人に対する理解を深める観点から、時間の許す限りいろいろな場所を見学することをお勧めします。

蘇州の虎丘(呉王ゆかりの地)

①同業または関連業種の国有企業や大手民営企業本社、工場等

連携候補先の評価或いは該当業種の中国の水準を知るために、是非見学していただきたいと思います。
ただし提携交渉先でもなければ、簡単には見学出来ません。当該企業と取引のある邦銀や日系商社に依頼するとか、邦銀経由で商務委員会に依頼するなどの工夫が必要です。
日中関係団体は比較的幅広く中国企業と交流があります。それらを通じて工場見学を申し出ることも一つの方法です。ただし当該団体から強力な会員勧誘の働きかけがあることは覚悟して下さい。
使用している設備、機械のレベル、それを使いこなしている従業員のレベル、勤務態度、原材料の歩留り状況、工場内の整理整頓状況等会社のP/LやB/S上ではわからない沢山の情報が得られます。
ある医療機器メーカーは合弁予定先である同業の国有大手企業の工場見学で、事務所、階段、廊下、トイレ、ロッカールーム、従業員食堂、厨房など作業場以外の場所もみて「衛生管理レベルが低すぎる、教育するにも並大抵ではない」として合弁をあきらめ独資に切り替えました。

②大型市街地開発地域

上海市人民政府前の人民広場の一角にある「上海市城市規画博物館」は、上海の都市計画の歴史や現状、将来を知るために必見です。
その上で浦東新区とりわけ金融貿易の中心地である陸家嘴地区の視察をお勧めします。金茂大厦の88階にある展望台からは、天気が良ければ上海全市が一望できます。
上海の浅草といわれる古い上海のおもかげを残す豫園商場や、隣接する新しい上海の観光スポットともいわれる“新天地”の見学は、中国の都市開発のモデルを見る思いがします。
南京路や准海路などの繁華街の散策も、人の多さを実感するだけでなく、世界の一流ブランド品の専門店がひしめいていて、中国の上・中流社会の消費水準を知る上で参考になります。15~20年前には見られなかった光景ですから、その変化のスピードにも驚かされます。

③松江工業開発区、松江区大学城、松江新城

1992年から手掛けた広大な松江工業開発区、上海市内の7つの大学を移設して作り上げた学園都市―松江区大学城、高層アパートが立ち並ぶ新しい住宅ニュータウン―松江新城(城は中国語では街や都市を意味する)も中国の都市計画のスケールの大きさを知る上で必見です。
上海の南西部に位置し、以前は車で市内から40~50分を要しましたが、地下鉄の乗り入れが完成して、上海の中心地との時間距離は30分以内に短縮され、工場、大学、住宅が共存する一大ニュータウンが出現しました。
逆に地下鉄乗り入れで住民が増え住宅地がどんどん拡大し、進出25年以上の工場は開発区の中心地区に進出したため、今後は工場移転の要請が懸念される事態になりつつある状況です。こういう状況は沿海地区各地の開発区の共通現象にもなっております。

④朝市

中国人の生活風景や活気に触れ、水産品や農作物など食べ物の豊かさを実感するには朝市の見学をお勧めします。冷蔵庫の普及はあっても市民の大部分は未だ毎日の買出しを朝市に依存しています。朝6時から7時の間が人出のピークです。暖かい季節や夏はご婦人がパジャマ姿で徘徊するので、初めて見学する人は呆気に取られます。

庭先で朝仕入れた鶏をしめて、ピンセットで細い毛をむしり取っている父親、そのまわりに子供達がしゃがみ込んでじっと見つめています。恐らく家族のお祝い事で今晩のごちそうの下ごしらえをしているところだと思います。父親か母親はその日は会社を休みます。

街中には多くの小学校、中学校があります。
小学校では朝8時近くなると、両親のどちらかが低学年の児童を自転車で送り届ける光景に出会います。一人っ子にかける親の期待が伝わってきます。小学校の入口には小学校が経営する印刷会社の看板も掛けてあり、ビジネス志向が強いことに驚かされます。
中学校も “重点中学”と 一般の中学があります。
重点中学は選抜試験を通った優秀な子供が集まっています。朝礼が終わって校舎に入る様子を傍らで見ていると、眼は生き生きとし顔付きも生気が溢れています。中国の将来を担うという意気込みすら感じます。すぐ隣の一般の中学とは好対照です。休日に2つの中学の校舎を見学した事があります。重点中学には美術室、音楽室、理科の実験室等が備わっています。一般中学は普通教室だけです。
このように早朝一時間、朝市と小学校、中学校を見て歩くだけで、中国の社会状況の一端を垣間見ることが出来ます。
しかし最近の上海などの大型都市の中心街では路上の朝市は撤去され、代わりに2階建ての個人商店を集約した建物が建てられ、朝市は建物の中に入りました。大型都市の下町や地方の都市に行けば、依然として昔ながらの路上の朝市風景を見ることができます。

余談になりますが、私は以前勤務していた銀行の上海駐在時代、日本から上海に来られる取引先の会長や社長には必ず朝市見学を提案しました。オーナー経営者はほとんど皆さん「是非見てみたい」とおっしゃいます。サラリーマン社長の多くは見学時間が早すぎるせいか、「次回時間が有れば・・・・・・」と遠慮されます。
逆に土曜日や日曜日にゴルフをお誘いすると、皆さん「いいですねぇ」と言ってお受けいただけます。しかしオーナー経営者は(何故かオーナー経営者にはハンディ10前後の達者な腕前の人が多いにもかかわらず)「あなたさえ良ければ、工場用地を出来るだけ多く案内していただきたい。ゴルフは進出が決まればいつでも出来ますから・・・・・・」とおっしゃる方が多かった記憶があります。朝8時出発、夜8時帰着のハードなスケジュールも意に介しません。オーナー経営者というのは、外国に来ても、土日でも体を張って命がけで仕事に取り組んでいることを思い知らされたものでした。
朝市見学のあとのオーナー経営者の感想に共通点があります。
「中国でもう一度サクセスストーリーが作れる。戦後日本の復興時代の雰囲気と似ている。当時と今の時代の違いは一つ。昔は事業を起こそうと思っても銀行がお金を貸してくれなくて苦労した。今は銀行が『借りろ、借りろ』の矢の催促」とよく皮肉を言われました。

⑤上海雑技(上海サーカス)

雑技とはアクロバットで、中国全土で観光用見世物として盛んです。人間技とは思えないレベルの高い演技を見せてくれます。失敗すると成功するまで繰り返し繰り返しやり直し、やっと成功すると手に汗を握ってみていた観衆から大拍手です。
私が雑技見学を勧める理由は、中国人はやる気になれば何でも出来ることを実感出来るのと、中にはユーモラスな寸劇もあって、中国人のユーモアを解する国民性がわかるからです。
知り合いになった上海雑技団の樽くぐりの名人が言いました。「雑技団に入れなかった人がオリンピック選手になっている」と。

⑥長江

上海の浦東地区の北は長江の河口です。上海税関事務所に事前に諒解をとって、是非長江の堤防に立ってみてください。まるで海のような水面が出現します。向う岸は見えません。河口の川幅は50Kmということです。 よく目を凝らしてみると陸地が霞んで見えることがあります。これは岸から10Km程の中洲長江島です。因みに長江は全長6300Kmの大河です。
長江見学をお勧めする理由は、中国は広大ということを実感してもらうためです。

⑦蘇州、杭州

時間があれば、蘇州や杭州まで足を伸ばしていただきたいと思います。中国の経済発展の中心地の一つ、人口1億7000万人の華東地区の開発状況がよくわかります。
「天に極楽あれば、地に蘇州、杭州あり」といわれる風光明媚な土地柄でもあります。

(7)その他の注意事項

①服装

公式訪問は背広、ネクタイ着用、宴会も同様です。(昔は中国側は首相や市長クラスでもジャンパー、ノーネクタイということがありましたが、最近はそのようなスタイルは少なくなりました。時たまジャンパー、ノーネクタイの人がいても気にしないでください。)
中国の春、秋は日中暖かでも朝晩冷え込むので、厚手の靴下やカーディガン、ベストの用意が必要です。体の芯が冷えて日本に帰国後風邪で倒れる例は少なくありません。コートの準備は、現地に確認したほうが安全です。

②水

水道水は硬水なので、水はミネラルウォーターか湯冷まし、お茶を飲むようにして下さい。

③タバコ

禁煙地区が増えていて、罰金取りが見張っていますので注意して下さい。特に空港は全域禁煙です。

④おみやげ

中国出張のおみやげは、空港の免税店が品物が豊富で不自由しません。ただし街中ニセモノが氾濫しているといっても過言ではありません。ブランド品は避けたほうが無難です。
お酒等の液体類は手荷物は厳禁ですので、空港の免税店で買うしかありません。トランクに入れてチェックインしても開封させられることがあります。

⑤海外旅行保険

日本企業はまず全社自動的に掛けていると思いますが念のためご注意申し上げます。特に中国人を日本に招待する時、中国側が付保していることを必ず確認して下さい。口頭でなくエビデンス(証拠書類)で確認すること、当方が身元保証人であれば、当方でも付保する慎重さが必要です。
銀行勤務時代の取引先からの相談で、日中双方が付保を忘れて甚大な被害が出ている事例に遭遇したことがあります。中国人一行の一名(獣医さん)が倒れ、大きな病院の集中治療室に入り、容態安定後日本での長期入院を余儀なくされたのですが、海外旅行保険を日中双方かけてないことがわかり、莫大な入院費用を、招待した日本側が負担せざるを得なかったことがありました。中国大使館の担当者も見にきて「これはまずい」と思ったのか、その後一回も姿を見せませんでした。当該日本の会社も「普段は必ず日本側で念のため海外保険をかけていたのに、今回に限ってなぜかチェックが漏れていた」と大変残念がっていました。さらに父親の長期入院見舞いのため中国からやってきた家族は「日本側の招待できて災難に遭遇したのだから、家族の滞在費も負担してほしい」「慰謝料も出してほしい」と要求して、日本側も争いたくないとして、応諾せざるを得ませんでした。

以上あれこれ述べて参りましたが、経営トップの訪中の成否は今後の会社の中国ビジネス展開に影響が大きいだけに、細心の注意が必要との思いから、気が付くことを申し述べてみました。

(この項おわり)

菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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