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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.11.28

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第41回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

頤和園(北京)

(4)悪徳ブローカーに気をつけよう(その1)

日本企業の中国進出に際してはよく中国人、台湾人、香港人など華僑系のブローカーが介在するケースが多くみられますが、華僑ブローカーは決してボランティアではありません(ブローカーには、日本の有力私立大学の中国人や日本人の教授の例も少なくありません)。仲介謝礼や進出決定時の成功報酬が目的であることが多く、時には動き出す前の工作費も要求するなど、注意が必要です。
議員が介在しているプロジェクトについても、議員本人に確認してみると、実はプロジェクトを推進している事業家とは大変親しく、事業家が議員の有力なスポンサーであることは間違いないのですが、当該プロジェクトのことは何も知らされていない、または知っていても支援を約束した覚えはないという例があります。議員も国会議員だけでなく、県議会議員や市議会議員のケースもあり、様々です。
あるハイテク案件の場合、その分野では学会のトップクラスの権威者と言われる大学教授が設立発起人に関係しているかのようなプロジェクトでしたが、本人は「名刺交換はしているが、発起人に同意したことはない」という例がありました。
また、議員や学者が関与しているからと言ってプロジェクトが順調に進むとは限らないことも説明を要しないでしょう。現職の国会議員が自ら手掛けたプロジェクトでありながら、てこずって苦労しておられた事例もありました。選挙で落選した後もかかわり続け、ついには中国で客死された元議員の例もあります。
各地の講演会や企業内勉強会でも「心あたりがある」との反応が多く、今でも時々悪徳ブローカーが絡む中国進出案件の相談がありますので、具体的事例を紹介して注意を喚起させていただきたいと思います。なお事柄の性格上、当事者が容易に推測されることを避けるため、業種や場所などについては脚色させていただきたいと思います。

①悪徳ブローカーの特色

中国ビジネスにおける悪徳ブローカーは、中国人、台湾人、香港人などいずれも中国語圏の華僑が多く、大半の悪徳ブローカーに共通しているのは、流暢な日本語を駆使し、しかも丁寧な敬語も使い分けることができることです。なかには、日本留学中の中国人留学生が中国語を武器に、中国の父親と一緒に日本の経営者に取り入る例もあります。日本企業の経営者で中国語を話したり聞きとることができる人はあまりおりませんから、日本語が流暢な中国人というだけで信用してしまう、あるいは頼りにしてしまう傾向があります。言葉が達者なことと、人柄がよいかどうか、仕事ができるかどうかは全く別の問題であることを冷静の考えていただきたいと思います。よくブローカーが日本語ができるということで、通訳も兼ねているケースがありますが、これは悪徳ブローカーにとって思うつぼです。事を自分に有利にするために、自分に都合の悪い話や、日本側に知られたくない話は省いてしまうことが良くあります。慣れてないせいか、人名、専門用語、数字とその単位を間違えたり勝手に省略するケースが多く、話が分かりにくくなってしまいがちです。ブローカーを通訳に使うことは絶対に避けていただきたいと思います。
悪徳ブローカーに共通なもう一つの特色は、彼らの話は全てでたらめというわけではなく、かなりの程度まで正確なことです。彼らは相当の情報を集めて近づいてくる習性があります。そして人脈や中国当局とのコネの強さを自慢するわけです。日本の経営者も流暢な日本語で会話がスムーズにいく上に、かなり正確な情報を持っているということで、いっそう頼りにしてしまいます。私どもがいろいろご忠告申し上げても、「それにしてもあそこまで知っているというのは、相当政治力がある証拠だ」と信じきっています。
悪徳ブローカーに共通とはいわないまでも、よくある特徴は、自称する職業が宝石、美術品、骨董品を扱うなど一般の人にはあまり馴染みがないケース、したがってその人物の品定めに直感が働きにくいケースがあります。
骨董商を名乗るブローカーが締結した対中投資のコンサルタント契約書の住所が、東京の南青山通り(通称「骨董通り」)なので、念のため現地に出向き調べたところ、テレビでもなじみの有名ディベロッパーのマンション所在地と一致、マンションの中には該当する個人名や会社名はなく、近所にある社100年を誇る骨董の老舗の社長にヒヤリングしても、「この近辺でそのような中国人の骨董屋の名前は聞いたことがない」と言われました。
某国家要人の親せきと称して宝石商を名乗る中国人女性ブローカーの名刺に並ぶ幾つかの肩書にも、中国の美術品関係団体の役職名が印刷されていて、おまけに役職名の英語のスペリングが間違っているという念の入りようです。
更によくある特徴は、自分の氏素性について、我々が一見調べようがない大風呂敷を広げて語っていることです。いわく「某地方都市の某市長の経済顧問」「某現役副総理と親しく、北京に行けばいつでも食事できる関係」「中国の有名な歴史上の某人物の〇代目の末裔」「ラストエンペラーの親戚筋」「香港の某大物財界人の縁戚」等々何でもありです。「某」は実名で語られるので、日本人はたやすく信用してしまいます。我々は何とか工夫して、素性、事実関係の確認に努めます。

(つづく)
菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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