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COLUMN コラム

駐在員のための中国ビジネス ー光と影ー

2016.12.26

駐在員のための「中国ビジネス―光と影―」(第42回)中国ビジネス余話

菅野 真一郎

黄山:中国・安徽省にある景勝地

(4)悪徳ブローカーに気をつけよう(その2)

②悪徳ブローカーの特色(その2)

日本企業の中国進出案件では、一般的にブローカーと中国側当事者の利害が一致しやすいことに留意していただきたいと思います。
一つは、プロジェクトを大きくしたがります。プロジェクトが大きくなればなるほど、ブローカーが手にする成功報酬が多くなる道理です。中国側もプロジェクトが大きいほど、点数を稼げて、成績を挙げることができます。合弁の場合、中国側は現金出資はゼロか僅かな金額で、出資の大半は、土地・建物・機械などの現物出資です。プロジェクトが大きくなっても、現物出資の評価額を、出資比率に見合うように膨らますだけですから、プロジェクトは大きいほど、中国側に有利になります。
二つは、むやみに調印などを急ぎたがります。早く話しをまとめて成功報酬を手に入れたいからです。これも早くプロジェクトを仕上げて一日も早く点数を稼ぎたい中国側の思惑と一致します。
どのような種類の案件に介在しようとするでしょうか。もっとも典型的なのは外資企業が中国ではまだ参入が困難な分野に、「自分の人脈で認可が取れます」と言って介入するケースです。

中国は2001年12月11日のWTO加盟に際し、関税障壁だけでなく非関税障壁(すなわち外資参入障壁など)についても3~5年の経過期間を設けて撤廃することを約束し、着実に実行しております。
しかし例えば製薬、薬の小売り(ドラッグストア)、病院経営や学校経営、出版事業、外資によるEC等いろいろな方面でなお外資参入の制限が多く、また法令上開放されていても実際には認可されなかったり、日本の常識では考えられないくらい審査に多くの時間を費やされる事例(製薬業の審査に3年以上を要し、この間に中国企業による偽物製品が出回るなど)が多く残っているのが実情です。
こういう分野に参入しようとすると、どこからともなく華僑ブローカーが近づいてきて仲介の労を申し出てくる例が多くあります。中国は「人治の国」と言われ人脈がものを言うという評判が定着しているため、かかる悪徳ブローカー介在の余地があるわけです。
しかし中国はWTO加盟後はむしろ法律に基づく案件審査がWTO加盟以前より鮮明になっていると考えるべきで、関係法令を詳しく調べたうえで関係行政部門とは正面から堂々と議論することが重要です。胡錦濤政権も習近平政権も「依法治国」を掲げ人治国家から法治国家を目指していることはご承知の通りです。
審査が前進しない場合はその原因を探求し原因を取り除く作業は不可欠です。人脈で解決することはまずありません。言えることは、原因を探求する際行政のキーパーソンにアプローチする必要があり、そのキーパーソンを紹介してもらうコネがあれば、時間とエネルギーの節約なります。私は「コネは無いよりは有った方が良い、しかしコネで案件が批准(認可)されることはまず無い」と申し上げたいと思います。
このように考えてくると、中国進出ではブローカーの介在は基本的に不要ということではないでしょうか。キーパーソンの紹介だけではお金になりにくいので、しつこく案件に介入しようとして仕切りたがるのも悪徳ブローカーの行動の特色です。
そのような悪徳ブローカーが接近してくる行動パターンは、直接コンタクトしてくることは稀で、必ず日本企業の経営者や役員と親しい人物を介して近づいてくるのが特色です。経営者や役員が警戒心を緩め悪徳ブローカーとの面談を断りにくくするお膳立てでもあります。

悪徳ブローカーの行動の特色の一つに“工作資金”の要求があります。私は一般的にブローカーは不要と考えていますので、この工作資金も不要です。ある沿海都市の大型文化施設の設計コンペに応募した日本の設計会社の会長から「市政府の文化部門の最高責任者(副市長)だった人物から500万円の工作資金を要求されているがどう考えるか」との相談を受けました。
私は「工作資金は何時、誰にいくら手渡すということを明らかにする必要の無い、領収書の無い使途不明金です。昔ならいざ知らず、最近の中国では不要です。むしろ犯罪の原因になるケースが多いので、外国人は手を出さないほうが無難です」と申し上げました。結局工作資金は一銭も使わずに、当該設計会社の作品がコンペで選ばれました。うがった見方をすれば、初めからこの設計会社が選ばれることが元副市長はわかっていて、工作費をせしめていかにも元副市長の力で選ばれたように見せかけようとしたのかもしれません。
また家電や自動車に使われる基礎資材を作る大型化学プロジェクトで、ドイツと競った日本・某国連合組に、中国の著名な政治家の一族が経営するコンサルタント会社から、数千万円(50万ドル)の工作資金の要求がありました。私どもは中国国内需要の見通しをたて、いずれ2つのプロジェクトは必要であることを折よく来日した国家発展計画委員会(当時)首脳(副主任)に説明し理解が得られたので、かかる工作資金は不要であることを説いたのですが、某国のメーカーの会長はドイツに勝つためには已むを得ないとの判断で数千万円を支払いました。当該コンサルタント会社は翌月倒産(偽装倒産?)し、工作資金の所在も不明です。しかも当該大型化学プロジェクトはドイツも、日本・某国連合も共に認可されました。
最後に申し上げたいことは、のちに判明する悪徳ブローカーと話をしているとなんとなく胡散臭い印象があるのも、私の長年の感、経験則であります。中国には13億人もいるわけですから、よりによって胡散臭い人物を相手にするのはやめてほしいということです。上述の行政のキーパーソンをきちんと紹介してくれるまともな立派な人物はいくらでもいるのも中国です。
また頼みもしないのにブローカーが現れたら「これはきちんとやればうまくいく」と思って、ブローカーは丁寧に断ることです。設計コンペの元副市長の事例がまさにこれに該当します。
次回以降具体的事例をいくつかご紹介しますが、悪徳ブローカーは華僑系だけでなく日本人のそれもいることは要注意です。           

(つづく)
菅野 真一郎

Shinichiro Kanno

PROFILE
1966年日本興業銀行入行、1984年同行上海駐在員事務所首席駐在員、日中投資促進機構設立に携わり同機構初代事務局次長、日本興業銀行初代上海支店長、同行取締役中国委員会委員長、日中投資促進機構理事事務局長を経て、2002年―2012年みずほコーポレート銀行顧問(中国担当)、2012年4月より東京国際大学客員教授(「現代中国ビジネス事情」)。現在まで30年間、主として日本企業の中国進出サポート、中国ビジネスに係るトラブル処理サポートの仕事に携わってきた。

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