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2017.03.21
菅野 真一郎
③ 悪徳ブローカーの事例(その3)
今回も悪徳ブローカーの特色である「悪徳ブローカーが接近してくる行動パターンは、直接コンタクトしてくることは稀で、必ず日本企業の経営者や役員と親しい人物を介して近づいてくる」事例を紹介します。
某大手金融機関のトップA氏のもとに、監督官庁の某有力局長から「中国国家指導者の息子B氏の筋から、日本の大手金融機関トップとの面談斡旋を頼まれている。会ってやってほしい」との要請がありました。
某局長はまもなく次官に就任した大物で、A氏の会社も某局長の若い時分から将来の大物次官候補として親しくしていた関係で、彼からの要請は受けざるを得ないということでした。小生が個人的に親しかったA氏から対応を相談され、先ずB氏の素性を調べたところ、中国の現役の国家要人の息子であることは間違いありませんでした。アメリカ留学経験があるものの、中国に戻り、中国のベンチャー企業への投資ファンドを立ち上げ、今回の来日はそのファンドの資金集めではないかと読めました。
小生からA氏に対しては①「親しい局長からの要請なので、忙しい中30分時間を割いた」(と言って面談時間は30分厳守)、②話の内容にかかわらず「趣旨は判りました」とか「検討してみましょう」というセリフは禁句(他の会社との面談で“A氏の内諾を得た”と言いふらす)、③「この次はゆっくり食事をしましょう」も禁句(必ずやってくる)―の3点をお伝えしました。
A氏はそつなく30分で面談を終えましたが、実はすぐに某有力元国会議員C氏からA氏の会社の中国部門の部長にホテルへの呼び出しの連絡が入り、当該部長は1時間半以上も付き合わされたということです。元国会議員は中央官庁出身ですから、そのコネを使いいろいろな官庁の有力局長にB氏との面談要請を行っていることも推測できました。本件の某局長は感がよくて、握らされたボールを一刻も早く手放すため、親しくしているA氏に投げたものと思われます。
本件C氏は、同じ中国国家要人の妻についても、中央官庁時代のコネを活用して日本の大手企業経営者との面談を斡旋して、妻の出身地での工業開発区(工業団地)建設と日本企業誘致の片棒を担いでいるとの話も飛び交っていましたので、A氏の会社は幸いその後B氏との接触を断ち、実害を被らずに済んだのは不幸中の幸いというべきでしょうか。
悪徳ブローカーがらみの面談で注意することは、彼らは平気で「〇〇社長とは話がついている」「〇〇社長の内諾を得ている」などと実名を言いふらして、自分の話の信憑性を高めようとするので、日本人同士のようなあいまいな表現は厳に慎まなければなりません。彼らには“以心伝心”とか“惻隠の情”は全く通じなくて、すべては自分に有利になるように話を作り上げることに注意していただきたいと思います。
どうしても悪徳ブローカーまがいの人物に会わざるを得ない場合の鉄則は、前述の三点すなわち①面談時間を30分以内に限定(通訳を入れれば実質20分程度)、②「趣旨は分かりました」「前向きに考えましょう」「検討してみましょう」などあいまいな表現は禁句、③「この次はお食事をしながらゆっくりお話ししましょう」と言ったお世辞も禁句―ということです。
有力元国会議員C氏がどういう目的で中国国家要人の家族の日本での経済活動(ビジネス)のお先棒を担いでいるのかはわかりませんが、中国ビジネスの怖さをよく認識していただき、うかつな悪徳ブローカーまがいの行動は慎んでいただきたいと思う次第です。
(つづく)
菅野 真一郎
Shinichiro Kanno