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2015.03.09
北原 敬之
近年日本でも大型のショッピングモールが増えていますが、その巨大さにおいてはアメリカのショッピングモールには及びません。筆者もアメリカ駐在時には週末によくショッピングモールに買物に行きましたが、何度か行くうちに気付いたことがありました。その1つが、ショッピングモールに出店している店舗の入れ替わりの速さです。「あまり繁盛していない」あるいは「お客さんが少ない」ように見える店舗は、いつの間にか撤退し、しばらくすると同じ場所に新しい店舗がオープンします。日本のモールでももちろん店舗の入れ替わりはありますが、アメリカほど頻繁ではありません。アメリカのモールでは、繁盛する店舗が生き残り、そうでない店舗が淘汰され、結果としてモール全体の売上が増える「優勝劣敗の法則」が徹底されています。「弱肉強食の法則」と言い換えてもいいでしょう。日本人から見ると、非情と感じるかもしれませんが、この「優勝劣敗の法則」こそが「アメリカ経済のダイナミズム」「アメリカ企業の強さ」の1つの源泉であると考えられます。
「優勝劣敗の法則」が成り立つ背景には、アメリカの「移動型狩猟民族競争社会」の文化があります。獲物を得られる場所を求めて移動を繰り返し、獲物が得られない場合には、素早く決断して他の場所に移動していく「移動型狩猟民族競争社会」では、「見切りの良さ」と「決断の速さ」が勝敗の決め手になります。これに対して、「定住型稲作文化村社会」の日本では、「一所懸命」という言葉に象徴されるように、じっくりと腰を落ち着けて農作業に取り組み、収穫が十分得られない場合でも簡単に農地を放棄して他所へ移動することはなく、成果を出すまで頑張り続けるという文化で、「粘り強さ」と「長期安定性」が求められます。
前述したショッピングモールの店舗の入れ替わりの例のように、とにかくアメリカ企業の「見切りの良さ」と「決断の速さ」には感心します。アメリカ企業は、業績が不振の場合、そのビジネスをあきらめて競争相手に売却してしまったり、逆に、競合企業を買収してシェアを上げたりといった、いわゆる「M&A戦略」が得意です。アメリカ企業に比べて日本企業のM&Aが今一つ上手く行かないと感じるのは、「見切りの良さ」と「決断の速さ」が足りないからでしょうか? また、経営が破綻した場合も、アメリカ企業は、素早く「連邦破産法11条」(日本の会社更生法・民事再生法に相当)の適用を申請して経営再建を図りますが、そのプロセスの速さには驚かされます。数年前に当時世界最大の自動車メーカーであったGMの経営が破綻するという出来事がありましたが、GMは、破綻後速やかに「連邦破産法11条」を申請し、銀行などに債権放棄を要請するとともに、経営再建策(自動車ブランドの絞り込み,ディーラー数の削減,賃金引き下げなど)を矢継ぎ早に実行しました。オバマ大統領も政府による融資や株式引受などのGM支援策をスピーディーに決定し、当初予想された時期よりも大幅に早く、GMは再建を果たしました。これもアメリカ経済のダイナミズムを示す例だと思います。
日本企業の場合は、売れ行き不振でも、何とか挽回しようと必死に努力を続けます。日本企業の強みの1つである「粘り強さ」ですが、ケースによっては、この「粘り強さ」が逆に作用して「見切りの悪さ」につながり、思い切った手を打てないまま無駄な努力を続ける結果になることもあります。また、経営危機に直面している場合も、トップダウン型のアメリカ企業と異なり、社内のコンセンサスを重視するため、意思決定に時間がかかり、事業売却や他社との合併あるいは会社更生法の申請など経営再建のための思い切った決断が遅れてしまうことがあります。
「粘り強さ」「長期安定性」「コンセンサス重視」は日本のビジネス文化に合った日本企業の強みであり、これからもキープしていくべきだと思いますが、同時に、アメリカ企業の強みである「見切りの良さ」と「決断の速さ」からも学んで、状況によってどちらでも対応できる「たくましさ」と「したたかさ」を身に付けることが、グローバル時代を生きる日本人ビジネスマンに課せられた課題ではないでしょうか。
北原 敬之
Hiroshi Kitahara