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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2015.06.01

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.16 『アメリカ人は残業しない?』

北原 敬之

イリノイ州シカゴにあるミレニアムパークの巨大彫刻「クラウド・ゲート」

一昔前には「アメリカ人は残業しない」とか「アメリカ人は忙しくても定時になるとすぐ帰宅してしまう」とか、ステレオタイプ的に言われたことがありましたが、もちろんそんなことはありません。仕事が忙しい時には時間外勤務でカバーするというのは日本もアメリカも共通です。日本では定時後に残って仕事する「残業」が圧倒的に多く、時には深夜まで残業することも珍しくありません。

アメリカの場合、工場などでは勤務シフトの都合や機械稼働の連続性等の理由で「残業」が普通ですが、オフィスで働くいわゆるホワイトカラーの人たちは、「残業」よりも「早出」を好む傾向があります。定時よりも早く早朝に出勤して仕事するいわゆる「朝型勤務」です。筆者も、アメリカ駐在時代、アメリカ人の部下から早朝5:00に会議をやろうと言われて最初は驚きましたが、やってみると、オフィスは静かだし、朝一番で頭も冴えているので、定時後に疲れた頭で仕事するよりもむしろ効率が良いことがわかり、会議だけでなく、他の仕事でも早朝に出勤することが多くなりました。最近、日本の企業や官庁が「朝型勤務」の導入を検討しているようですが、良いことだと思います。今回のコラムでは「朝型勤務」について考えてみたいと思います。

忙しい時期にはチーム全員で夜遅くまで「残業」して、時にはそのまま全員で居酒屋での「飲み会」に突入、日本の企業でよく見られる光景です。こういう「残業」は、日本のビジネス文化にあったやり方で、チーム全員の一体感が高まる等のメリットがある反面、自分の仕事が終わっても他の人がまだ終わっていないと帰宅し難いので、そのまま会社に残ってしまう「つきあい残業」や、長時間の勤務で効率が低下している「ダラダラ残業」が増えるというデメリットもあります。

アメリカ人が残業よりも早出を好む理由の1つが、彼らの価値観に基づく「夕食(ディナー)は家族が揃って一緒に食べるものだというこだわり」があるように思います。また、家事は奥さんまかせの日本人の夫と違って、アメリカ人の夫は早く帰って奥さんの家事を手伝います。家族サービスができない「残業」よりも、自分が早起きして早朝に仕事をこなし定時後は早く帰る「早出」の方が、彼らのライフスタイルに合っているということです。

工場部門の生産性は日本企業の方がアメリカ企業よりも高く、逆に、事務部門や技術部門(いわゆるホワイトカラー)の生産性は、アメリカ企業の方が日本企業より高いと言われています。実際には、企業規模・業種等による違いもあるし、トップダウン型で意思決定の速いアメリカ企業とコンセンサス重視の日本企業とのビジネス文化の違いもあって、単純に比較することはできません。ただ、筆者の実感としては、アメリカ人ビジネスマンは、仕事とプライベートつまりONとOFFの切り替えが上手く、定時間内は仕事に集中し、定時後は早く帰宅し家族サービスに努め、いわゆる「つきあい残業」や「ダラダラ残業」になることはありません。忙しい時は、残業でなく、早出で早朝に効率よく仕事をこなします。

未だに「夜遅くまで残業することが一生懸命働くこと」だと考える傾向の強い日本人ビジネスマンにとっては、「朝型勤務」によって仕事も家族サービスも両方こなすアメリカ人ビジネスマンの生き方は、ある意味新鮮に感じられます。ワークライフバランスが重視される中、「朝型勤務」の導入が日本人の「働き方」を見直す1つのきっかけになることを期待します。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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