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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2015.09.24

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.19 『Learning Organization』

北原 敬之

アーチーズ国立公園(米国・ユタ州)は、類を見ない様々な地形に加え、世界的に有名なデリケート・アーチを含む、2,000を超える自然にできた砂岩のアーチを保護している。

筆者は、ビジネスマンとして、また経営学の研究者として、いろいろな企業を見てきましたが、アメリカ企業でも日本企業でも、いわゆる「エクセレントカンパニー」と呼ばれるような優れた企業には1つの共通点があると思います。それは「学習能力の高さ」です。経営学の名著の1つであるピーター・センゲ博士の『The Fifth Discipline: the Art and Practice of the Learning Organization』で有名になった「Learning Organization」(学習する組織)という言葉に象徴されるように、「組織としての強さ」は「学習能力の高さ」で決まるといっても過言ではありません。今回のコラムでは、企業の学習能力について考えてみたいと思います。

「学習能力」とは、個々のビジネスのケースや様々な機会を通じて、「自ら学び、学んだ知識・情報を個人だけでなく組織として蓄積し、自らの組織の成長につなげていくプロセス」であり、「学習」を続けていく「企業文化」です。優れた企業には、この「学習能力」の高い社員が多く、彼らは、ごく自然に、「上司・先輩から学ぶ」「市場・顧客から学ぶ」「失敗から学ぶ」「ベストプラクティスから学ぶ」ことによって、自分達の組織能力を高めています。

(1)上司・先輩から学ぶ

「OJT」(On the Job Training)という言葉がありますが、優れた企業の「OJT」は、「OJD」(On the Job Development)と「OJL」(On the Job Learning)を足したもので、「上司が部下を育てる・鍛える」ことと「部下が自ら学ぶ」ことがセットで行われます。「部下に知識を与える」のでなく、「部下に自分で考えさせる」「部下が自分で気付く」ことが重要で、「How」よりも「Why」を重視します。上司・先輩から部下・後輩に伝承される知識・情報には、「形式知」と「暗黙知」がありますが、特に「暗黙知」は教えられて身に付くものではなく、「OJD」で鍛えられながら「OJL」によって自ら学んで習得する以外に道はありません。学習能力の高い企業は、この「OJD」+「OJL」を継続的に実行しており、組織のDNAになっています。

(2)市場・顧客から学ぶ

市場・顧客に適応した事業戦略のためには、市場・顧客の情報を的確に掴むことが重要であることは言うまでもありません。「学習能力」の高い組織には、学習によって蓄積された「知識の厚み」があり、掴んだ情報を「奥行きと広がり」のある眼で見ることができるため、情報に対する感度が高く、社員個人に入った情報でも、組織内でタイムリーに共有され、それを生かしてビジネスチャンスに結びつける可能性が高くなります。
近年インターネットやSNSの発達で情報収集は容易になりましたが、集めた情報を活かせるかどうかは、その企業の「学習能力」次第で、個々の社員がビジョンと問題意識を持って市場・顧客と向き合うことが、「情報の質や重要性を見分ける感度」「情報のキーポイントを見つける眼力」「情報を組織内で広く展開する発信力」「情報を事業に結び付けるビジネスセンス」を高めます。

(3)失敗から学ぶ

ビジネスに失敗はつきものですが、優れた企業は同じ失敗を繰り返しません。それは、「失敗から学ぶ文化」があるからです。「失敗から学ぶ文化」とは、「失敗の原因を徹底的に追及し問題の本質に迫る」「応急措置ではなく根本的な改善を実行する」「失敗の情報を組織内で共有し同じ失敗を繰り返さない」ことが、組織のDNAとして徹底的かつ継続的に実行されているという意味です。企業の中には、失敗すると、「反省」したり、もっと酷い場合は「犯人捜し」したりするケースが見受けられますが、本当に必要なことは「失敗から学ぶ」ことです。

(4)ベストプラクティスから学ぶ

優れた企業のもう1つの特徴は、伝統や自分流のやり方にこだわらず、良いものはどんどん取り入れる柔軟性・謙虚さを持っていることです。彼らは、国内外を問わず、社内で情報を共有し、「ベストプラクティスから学ぶ」を徹底しています。社内のベストプラクティスから学ぶことができるのは 「共通言語」があるからです。「共通言語」とは、日本語・英語・中国語等の Language という意味の言語ではなく、各企業の独自の「企業文化」「製品文化」「技術文化」を共有する社員同士の“会話言語” という意味で、言わば社内コミュニケーションの基盤です。ベストプラクティスには「形式知」と「暗黙知」が含まれており、暗黙知のウェイトが高ければ高いほど「共通言語」 の重みが増すことは言うまでもありません。例えば、トヨタの社員は「トヨタ語」で、GEの社員は「GE語」で会話しています。学習能力の高い企業ほど、「共通言語」による社内コミュニケーションができていると言えます。

「学習能力」については、ビジネス文化の違いもあり、日本企業,アメリカ企業でそれぞれ強み・弱みがありますが、「学習能力」が企業や組織の競争力や将来性を左右する大きなファクターの1つであることは間違いありません。自社が「Learning Organization」(学習する組織)であるかどうかを再点検されてはいかがでしょうか?

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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