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COLUMN コラム

日本人ビジネスマンの見たアメリカ

2016.02.29

「日本人ビジネスマンの見たアメリカ」No.24 『言葉の力』

北原 敬之

リンカーン記念館

アメリカの大統領選挙がスタートしました。現在は、民主党・共和党の二大政党がそれぞれの党の候補者を選ぶ予備選挙の段階ですが、毎日のようにメディアで大きく取り上げられ、筆者も関心を持って見ています。
アメリカの大統領選挙では、TV選挙と言われるほど、TVでの候補者のインタビューや候補者同士の討論会が多く、TVでの発言や態度が支持率に大きく影響すると言われていますが、特に重要なのは、自分の考えを「簡潔に、わかりやすく、誠実に、力強く、魅力的に」伝える「情報発信力」言い換えれば「言葉の力」です。

まだTVのない時代の「人民の人民による人民のための政治」で有名なGettysburg Address のリンカーン大統領や、東西冷戦を終わらせる歴史的使命を果たしたレーガン大統領など、優れたリーダーと言われる人物は、例外なく、演説の名手で、人々を動かす「言葉の力」を持っていました。

大統領や政治家に限らず、優れたリーダーは、この「言葉の力」によって、ビジョンを示し、求心力を高め、リーダーシップを発揮してきました。 リーダーに人格・識見が求められるのは日本もアメリカも共通ですが、ハイコンテクスト文化の日本に比べると、ローコンテクスト文化のアメリカの方が、「言葉の力」の重要性が高いように感じます。今月のコラムでは、この「言葉の力」について考えてみたいと思います。

筆者は、日本企業のアメリカ拠点に共通する課題の1つは、総じて、日本人トップの情報発信力が弱いということだと思います。(例外もあると思いますが、一般論とご理解ください。)例えば、トップマネジメントの重要なミッションの1つである「ビジョン」については、ビジョンを作る過程では経営企画部門等の力を借りることはあっても、ビジョンを発表する際は、トップ自らが情報発信することが必須です。たとえて言うなら、「仏を作る」のは経営企画部門でも、「魂を入れる」のはトップだということです。近年、自ら情報発信する日本人トップが増えてきたことは喜ばしいことですが、日本人トップの場合、「簡潔に」「わかりやすく」「誠実に」の部分は合格点ですが、「力強く」「魅力的に」の部分については、残念ながら、弱いと言わざるを得ません。以前のコラムでも書きましたが、「リーダーは自分の言葉で語る」ことが重要です。自分の言葉で語るからこそ、説得力と求心力を高め、「力強く」「魅力的に」聞こえます。事務方の作った原稿に頼るのではなく、リーダーが自分の「思い」を込めて、言葉によって「未来の設計図」を示す。これがビジョンであり、それを支えるのが「言葉の力」です。

日本には「以心伝心」(英語では「heart to heart 」)という言葉がありますが、日本のハイコンテクスト文化を前提としたもので、ローコンテクスト文化のアメリカでは機能しません。「以心」と「伝心」の間に「発信」を入れて、「以心発信伝心」がアメリカ流です。また、日本には、伝統的に「寡黙」を尊び、「不言実行」という姿勢をリスペクトする文化があり、筆者も個人的には日本の良き伝統として支持しますが、アメリカでのマネジメントには「不言実行」はミスマッチで、「有言実行」がアメリカ流です。
日本企業のアメリカ拠点においても、「言葉の力」「以心発信伝心」「有言実行」をキーワードに、トップの情報発信やリーダー育成のあり方について再考されてはいかがでしょうか。
尚、リーダーの「言葉の力」については、経営危機に陥っていた建機メーカーのコマツを再生し、日本を代表するエクセレントカンパニーに育てたコマツ元社長(現相談役)の坂根正弘氏が『言葉力が人を動かす』(東洋経済新報社)というすばらしい本を書かれていますので、お読みになることをお勧めします。

北原 敬之

Hiroshi Kitahara

PROFILE
京都産業大学経営学部教授。1978年早稲田大学商学部卒業、株式会社デンソー入社、デンソー・インターナショナル・アメリカ副社長、デンソー経営企画部担当部長、関東学院大学経済学部客員教授等を経て現職。主な論文に「日系自動車部品サプライヤーの競争力を再考する」「無意識を意識する~日本企業の海外拠点マネジメントにおける思考と行動」等。日本企業のグローバル化、自動車部品産業、異文化マネジメント等に関する講演多数。国際ビジネス研究学会、組織学会、多国籍企業学会、異文化経営学会、産業学会、経営行動科学学会、ビジネスモデル学会会員。

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