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2016.10.24
北原 敬之
「Customer Satisfaction」という言葉は、「顧客満足」と訳されることが多いようですが、「高品質の製品・サービスを提供することによりお客様の満足と信頼を得る」という意味で、企業は、顧客満足度を高めるために、製品・サービス・システムの開発・改善や人材育成など様々な努力をしており、CSI (Customer Satisfaction Index)と呼ばれる「顧客満足度指数」を定期的にチェックするなど、マネジメントの重要な要素の1つになっています。今回のコラムでは「Customer Satisfaction」について考えてみたいと思います。
筆者は、アメリカ駐在時代、子供が小さかったこともあって、ハンバーガーチェーンの「マクドナルド」によく行きましたが、「マクドナルド」に代表されるアメリカのファーストフード店は、膨大な「接客マニュアル」が整備され、店員は「接客マニュアル」通りに来店客とコミュニケーションします。つまり、お客が来店した時の挨拶から、商品の注文の受け方、商品の説明の仕方、商品の渡し方、お客からの質問やクレームに対する対応などは、すべて「接客マニュアル」通りに行われるので、どこの店に行っても、あるいは、どの店員が対応しても、お客とのコミュニケーションはすべて同じということです。
「すべてマニュアル通り」と言うと、なんとなく「味気ない」と感じる読者も多いと思います。筆者も、最初は、どんな質問をしても必ず同じ答えが同じ言い方で返ってくる「マニュアル型」接客に違和感を感じていましたが、慣れてくると、サービス業の1つの形態として「アメリカ文化」に合ったやり方なのかなと思うようになりました。
サービス業は「サービスの質がサービスを行う人材の質に左右される」という性質があります。1つの店の中でも、気が利く店員と利かない店員、愛想の良い店員と不愛想な店員、コミュニケーション能力の高い店員と低い店員がいます。したがって、例えば、「店員Aが接客すると80点、店員Bが接客すると120点、店員Cが接客すると40点」というバラツキが生じることになります。これに対して、「マニュアル型」接客の場合は、必ず全店員が80点で、120点の店員はいませんが、40点の店員もいません。つまり、「マニュアル型」接客は「人材の質に関係なく一定のレベルのサービスを提供するシステム」であると言うことができます。「多民族国家で人材の質のバラツキが大きいアメリカでは、個人の裁量にまかせるよりも、全員がマニュアル通りに仕事した方が、トータルとしてのサービスの質を高めることができる。」という考え方に基づいたシステムです。名前を付ければ、「マニュアル型サービス業」でしょうか。
これに対して、日本の伝統的サービス業はどうでしょうか。東京オリンピック誘致活動のプレゼンテーションで一躍有名になった「おもてなし」、この極めて日本的な言葉の中に日本のサービス業を支える下記の2つの要素が凝縮されているように思います。
① 質の高い仕事を通じて顧客の信頼を得ることを最優先する。
② 質の高い仕事をするために時間と手間をかけて人を育てる。
つまり、マニュアルに頼るのではなく、「サービスを行う人材を育てる(鍛える)ことによってサービスの質を高める」という考え方に基づくシステムで、要員一人ひとりの質のバラツキが小さい日本で人材育成による更なるレベルアップを図るため、40点の要員はいませんが、120点の要員もいれば、80点の要員もいるということになります。アメリカ流の「マニュアル型サービス業」に対して、日本流の「ひとづくり型サービス業」と言っても良いと思います。
近年、海外から日本を訪れる観光客が急増している理由の1つは、この日本流の「ひとづくり型サービス業」が海外でも高い支持を獲得しているからです。それは、単に日本のサービスが高品質であるからというだけでなく、そのベースにある日本人の「仕事の質にこだわる文化」「常に顧客のことを最優先に考える文化」が評価されているからだと考えられます。
アメリカ流の「マニュアル型サービス業」と日本流の「ひとづくり型サービス業」、「質の高いサービスを提供することによりお客様の満足と信頼を得る」という「Customer Satisfaction」の目標は同じでも、アプローチは異なります。どちらが良いとか悪いとかではありません。国民性も文化も異なるアメリカと日本で、それぞれがサービスの質向上を目指して構築してきたシステムです。我々日本人ビジネスマンには、歴史や文化も含めて、その意味を正しく理解し、日米双方あるいはグローバルなマネジメントに活かしていく姿勢が求められています。
北原 敬之
Hiroshi Kitahara