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COLUMN コラム

世界最北の日本レストラン フィンランドで苦闘したあるビジネスマンの物語

2015.06.08

【世界最北の日本レストラン―フィンランドで苦闘した あるビジネスマンの物語(55)】言葉は本心を隠すため!

長井 一俊

現存するオリンピック競技場

現存するオリンピック競技場

6月の花嫁(June Bride)と言う言葉は、梅雨の日本にはそぐわないが、北欧ではまさに、美しく着飾った花嫁に相応しい祝辞である。Juneの語源は美の女神Junoから来ていると言われ、6月は花嫁にとって、この上ない結婚月なのだ。その爽やかな6月の中旬、ヨハンソン女史から次のようなメールが届いた。

ISADORAのバッグを頂きありがとうございました。私の使う香水の銘柄を東洋人の貴男に言い当てられたのにはビックリしました。

私はこの春、従姉妹の住むロスアンゼルスに招かれ、その折にラスベガスに行きました。私が泊まったホテルの1階で、いかにも金持ちらしい一団が特別室で美女達をはべらせて、お酒をのみながらバカラ賭博をやっているのを見ました。カジノの従業員にその人達の素性を聞くと、『武器を売って大儲けしている連中ですよ』と、そっと教えてくれました。銃火器による多数の犠牲者を弔うどころか、カジノで博打に興じていたのです。本当に腹立たしく思っていた矢先に、私の甥が銃の被害者になってしまったのです。

貴男が銃所持禁止論者である事を知らず、一方的にきつい事を言ってしまい申し訳なく思っています。

甥は、フィンランドで生まれ育ちながら、母親がスウェーデン人である為にフィンランド語がいまだ上手に話せません。近所の小学校に通わせたのですが、言葉の問題でいじめられる事が多く、結局はスウェーデン・スクールに通っています。父親はフィンランド人ですが、子供にフィンランド語を教える事は出来ませんでした。フィンランド語はそれほど難しいのです。そのせいか、甥は私の訪問をいつも待ちわびていて、私も甥が別段に可愛く思えます。それだけに、銃による怪我はとてもショックな出来事でした。

私は、貴男が言った「歴史の節目は武器を放棄するチャンス」と言う説にとても興味をもちました。フィンランドでは、1952年にヘルシンキ・オリンピックを開催して、世界の人達を招きましたが、その時に銃の放棄を宣言すれば良かったように思えます。最近では、ベルリンの壁が崩壊してEU (欧州共同体)に参加した時とか、第10代大統領アハティーサーリがコソボとセルビアの仲介に成功した時など、チャンスは何回かあったように思えます。

アメリカでは、法律の多くが州レベルで制定されるので、今となっては、全面的銃規制は至難でしょう。私は歴史を教えていますから、これを機会にアメリカの歴史書を読み直してみました。すると、アメリカの音楽史の章の中で、「ヨーロッパからの移民の数が少なかった頃、現地人(インディアン)からの攻撃を防ぐ為に、山岳地に住んだそうです。そこで歌われたのがカントリーミュージックの“マウンテン”でした。そしてヨーロッパ人が増えるにしたがって、彼らは丘陵地帯に下りてきました。その時に歌われたのが“ヒルビリー”、そしてさらに人口が増えて安全度が増した時、平地に移りました。この時流行した歌が“ブルーグラス”でした。平和を得たその頃に、軍人や保安官以外には銃を持たせないようにしたら良かったと思います。 それが実現していたら、武器をもった悪徳商人達が、アフリカから奴隷を連れてはこなかったでしょうし、それに起因する南北戦争も、又人種問題も起きなかったに違いありません。

次回にポリに行った時、又貴男を尋ねます。日本の歴史を教えて下さい。と書かれていた。

私は手紙を読み終えて、受験戦争の無い北欧では、高校教師でも自分なりの歴史観や世界観を持つ余裕がある事が、大変羨ましく思えた。

又、今更ながらフィンランド語の難しさも認識させられた。現在でもフィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語の二つだ。かつて600年間フィンランドを統治したスウェーデン人も、現在フィンランドに住むスウェーデン人の末裔も、いまだにフィンランド語をマスター出来ていないのだ。その為、フィンランドは公用語を二つ維持して、全ての公文書や交通標識等を両国語で併記しなければ、社会が上手く廻っていかないのだ。

フィンランド人のお年寄りはスウェーデン語を理解するが、フィンランドの若者達は、スウェーデン語を習おうとはしない。これは、韓国と日本の関係によく似ている。韓国のお年寄りは日本語を理解するが、若者は日本語を習おうとはしない。

フランスの女流作家、カトリーヌ・アルレーは著書の中で、「言葉は人の本心を隠す為につくられた」と言っている。フィンランド人は長年の統治者であるスウェーデン人やロシア人から、本音を隠す為に、極めて難解な言語を作り上げてきたように思え、アルレーの説は、あながち奇をてらっただけのものでは無いように思えてきた。

そんなに難しい言葉を毎日使っていれば、自然と脳は発達するに違いない。フィンランド人の教育レベルが高い最大の秘密は、そこにあるのかも知れない。

長井 一俊

Kazutoshi Nagai

PROFILE
慶応義塾大学法学部政治学科卒。米国留学後、船による半年間世界一周の旅を経験。カデリウス株式会社・ストックホルム本社に勤務。帰国後、企画会社・株式会社JPAを設立し、世界初の商業用ロボット(ミスター・ランダム)、清酒若貴、ノートPC用キャリングケース(ダイナバッグ)等、数々のヒット商品を企画・開発。バブル経済崩壊を機にフィンランドに会社の拠点を移し、電子部品、皮革等の輸出入を行う。趣味の日本料理を生かして、世界最北の寿司店を開業。

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