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2015.06.15
定森 幸生
企業経営者やライン現場の管理職の最大の任務は、その企業の存在理由の裏付けとして掲げた経営理念(mission, vision and values)に基づいて全役職員の求心力を高め、組織を構成するメンバーの能力とやる気を総動員して、社内外のステークホルダーにコミットした事業活動の業績目標を達成することです。ビジネスには不確定要因や阻害要因がたくさんありますから、業績目標達成のためには、期中に遭遇するさまざまな困難を克服しながら、強固な意志をもって「成果」を追い求め続けることが必要になります。
「成果」を追い求める過程では、経営理念に反するような業務行動がないように、企業のガバナンスを有効に機能させることも重要な経営命題です。 この点を徹底するには、管理職が日頃から組織メンバーと経営理念を具体的な成果追求行動にどうのように反映させるべきかについて、さまざまな機会を捉えて話し合うことが必要です。業績評価やその他の人事評価面談でも採り上げるべき重要な話題でもあります。日本本社の社員とは立場や役割が異なる海外拠点スタッフの戦略的な人材活用のためには、日本国内での人材管理体制以上に、このような「成果追求過程」を徹底させることが不可欠であることは言うまでもありません。
ここで注意すべきことは、昨今、日本本社で「成果主義」の導入に力を注いできた日本企業の中に、「成果主義」人事管理体制導入の“成果”について否定的な結論に走る例が少なからず見受けられる点です。それらの多くは、過去10年余りの間に欧米の人事コンサルティング会社などを起用して、これまで“日本的”人事管理の象徴とされた「職能資格制度」が成果主義の障害になるとの間違った思い込みから、社員を「職能資格」ではなく「職務」で区分し、「資格給」を「職務給」に変更し、業績に応じて変動幅が顕著な「成果給」やボーナス(performance bonus や incentive bonusなど)のウエイトを高くする報酬制度を相次いで採り入れた企業です。これらの企業の中には、折角大きなコストとエネルギーを費やして制度を変更したのに、マネジメントが期待した制度導入の成果が顕著でないことから、「やはり成果主義は欧米の発想で、日本的経営風土やわが社の企業カルチャーに馴染まない」と結論づける例が少なくありません。
しかし、「成果主義」人事管理体制導入の“成果”が挙がらなかった事例に共通する本質的な制度設計上の欠陥は、成果主義の本質を見誤って、「成果主義」イコール「職能資格制度の廃止」プラス「職務給・成果給の導入」という短絡的な給与事務処理上の計算式が、あたかも成果主義のエッセンスであるかのように錯覚したことにあります。成果主義の本質は、「結果を出した社員を特定して他の社員より高い報酬を払って組織メンバーの間の給与格差をつける」ことではなく、むしろそれとは逆に、日常の業績管理 (performance management) のプロセスを適宜検証しながら、「社員に結果を出させるためにライン管理者のほうが努力し続けること」のほうが遥かに大切なことなのです。
人事考課の結果の評価点数や評価記号に基づいて給与の支給実務を行う作業からは、組織の成果追求能力を生み出すことは対して期待できません。さまざまな環境のもとで将来にわたって成果をあげ続け成長し続けさせるため、人材の高度活用(=各社員の能力をフルに活用しきること)を実現する高度な人材マネジメント手法を定義し、再検証する努力の継続こそが、持続性(sustainability)のある組織運営を支えるのです。欧米のコンサルティング会社に問題があったのでもなければ、社員の側に大きな瑕疵があったわけでもありません。制度の機能不全の原因の大半は、ライン管理者の業績管理手腕の稚拙さ、“成果をあげ続ける”人材集団の構築を強力にサポートする、人事管理制度も含めた社内メカニズムに不備があったことに起因すると考えるべきなのです。
定森 幸生
Yukio Sadamori