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定森 幸生
Yukio Sadamori
米国や英国と同様、日本の行政組織においても、多様化する日本社会と国民の行政サービスに対する期待の変化を踏まえて、確かな将来ビジョンに基づく効果的な施策を提案し推進できる行政人材が求められています。そのような社会の要請を受けて、様々な分野での確かな...
国家公務員の仕事の守備範囲が多岐にわたり、国の内外を問わず行政サービスに対する国民の質的要求度や期待値が高まることに呼応して、公務員の選考過程にコンピテンシーの概念を採用する動きは、英国においても認められます。...
コンピテンシーの概念を組織の業績向上のために活用する動きは、民間企業などの営利団体だけに止まりません。マクレランドに若手外交官の選考基準の検証作業を委嘱した米国務省は、その後も外交官(foreign service officer)や外...
企業活動におけるコンピテンシーが社会の関心を集めるようになったのは、米国ハーバード大学の心理学者マクレランド教授(David McClelland) が、1973年1月にAmerican Psychologist誌に発表した“Testing for Competence Rather...
前回は、職務横断的な研修を実施したり、所属部門を超えて他部門へ異動させる人事施策の目的のひとつは、将来の経営環境の変化やそれに伴う事業目標の変化に即応できるように、日頃から多様な職務に関する社員の職務能力の幅を広げ雇用適格性(employability)を高めることにあると説明しました。さらに言えば、...
前回は、職務横断研修や職務(部門)横断統合の代表例とその特性について説明しましたが、今回は、この人事施策の全社的な経営戦略上のメリットについて説明します。このテーマは、第15回から第18回で採り上げた「人事ブランド戦略」と密接な関係があります。すなわち、「人事ブランド戦略」と「職務(部門)横断統合」が意図する共通の経営目標は...
採用選考時に、応募者に担当職務の“必須”の職務資格(bona fide occupational qualifications:“BFOQ”)を提示する場合、ホスト国の雇用差別禁止に関する法的留意点も含めて注意深く設定することの重要性については、前回説明しました。それを踏まえて、今回は、採用面接の過程で、応募者が“当面”担当する職務について、採用時点での職務記述書に...
採用選考への応募者に対して、個々の職責を果たすために必要な知識・スキル・能力(knowledge, skills and abilitiesの頭文字をとって一般に“KSA”と呼ばれます)や学歴に関して、むやみに高い要件を設定することは、前回説明した通り、優秀な人材の入社後のモチベーション低下を招くリスクがありますが、それに止まらず、経営にとってさらに深刻な雇用差別...
企業が効果的な「人事ブランド戦略」によって、社外のステークホルダーに対する訴求力を高めることに成功すれば、労働市場で希少性の高い優秀な人材の応募が加速することが期待できます。その意味では、会社が新規に採用する人材の候補者の数と質が向上する可能性が高まります。このこと自体は、確かに経営陣や人事担当管理者にとって喜ばしいことではありま...
「人事ブランド戦略」の成否は、第16回で説明した「会社の経営理念が実務現場で適切に体現されていることの検証プロセス」と、第17回で説明した「会社の事業戦略と人事戦略との整合性を確認するプロセス」のすべてのステージにおいて、経営幹部だけでなく、社内の広範な業務を担当する管理職および一般社員が、当事者意識をもって積極的に参画すること...
有効な「人事ブランド戦略」を策定するのに必要なプロセスの2つ目は、「会社の事業戦略と人事戦略との間の整合性の確認」です。これは、本質的には企業活動を戦略的に運営するための必須条件ですから、海外の労働市場における「人事ブランド戦略」に固有の要素ではありません。しかし、海外の労働市場での自社の知名度や認知度が日本市場での実情と異なる...
事業戦略を着実に実行して成果を挙げ続けようとする企業の多くは、その目標達成に必須となる人材(critical talent)を確保する人事戦略の重点を、定着率よりも即戦力を重視(極端な場合は人材の“使い捨て”も容認)するこれまでの短期的な人材活用戦略から、雇用者として社内外の好感度が高い人事ブランドイメージの維持向上を重視する長期的な人材活用...
第14回では、会社の発展を支える優秀な人材を確保するためには、労働市場での企業の魅力度を高める「人事面でのブランド戦略」が必要であることに触れましたが、今回はその「人事ブランド戦略」の意義について説明します。ビジネスのグローバル化によって、国を跨いだ企業のM&Aが増加したり、人口知能などの技術革新の深化に伴って、従来...
<企業のリクルート活動のツールとしての役割>職務記述書は、海外拠点で仕事をしている在籍社員の業績管理や人事評価の重要なツールとして役立つだけでなく、その対外拠点が新規に人材をリクルートする際にも極めて重要なツールとして機能します。会社が新たに人材を確保するためには、選考プロセスの前提として、新規に定義された職務内容(job profile)を、求...
<年に一度は職務記述書の再点検>日本企業の海外拠点の人事管理において、職務記述書に対する誤解や職務記述書の作成を敬遠する風潮が、今だに多くみられます。職務記述書は「硬直的であるから“変化が常態化”している業界や経済成長が顕著なホスト国では、一旦作成した職務記述書はいずれ陳腐化するので、労力の割に利用価値は乏しい。」という批判が少なくあり...
第11回で採り上げた、海外拠点での「特定個人」と「特定多数」の管理を有効に行うための合理的な社員の役割区分(差別化)に欠かせないツールとして、職務記述書(job description)があります。職務記述書というのは、社員一人ひとりの業務について、代表的な職責や任務(duties)を簡潔に定義した書類です。自由裁量の余地が少ない標準化された定型業務の場合は、多く...
海外での人材マネジメントにおいて、「特定個人」と「特定多数」の管理を有効に行うためには、社員の職務の「差別化」を徹底することが欠かせません。職務の差別化とは、戦略上の必然性に基づいて、仕事を通じて個々人に期待する役割や成果責任(コミットメント)の大きさを区別する社員区分のことであり、仕事に直接関係のない個人の属性(人種、性別、年令、国籍な...
人事制度とは、社員一人ひとりの職務行動が社業の発展に貢献することを期待して、会社が「特定個人」とその集合体としての「特定多数」の社員を対象に、さまざまな時間軸の中で種々の施策を必要に応じて実行するためのシナリオです。あたかも「不特定多数」の社員、あるいは一律に「全社員」を想定したように思われる施策であっても、基本理念として必ず特定の個人の、...
<「歴史観」に基づく教訓>第8回のコラムでは、これまで日本企業が海外事業展開の過程で遭遇してきた国際人事マネジメントに関する多くの教訓の中から、特に重要な4つの「歴史の教訓」のうち、①「ローテーションの狭間で失われる継続性」と、②「本質(substance)と形式(style)の見分け」の2つをご紹介しました。今回は、人事制度に関連する2つの重要な教訓に...
<「歴史観」に基づく教訓>ビスマルク(Otto von Bismarck)の言葉に、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というものがあります。挑発的なトーンなのでよく引用されますが、もともとは、Only a fool learns from his own mistakes. The wise man learns from the mistakes of others. (自分自身の失敗から学ぶことには限界があるので、先達の失敗も教訓にせよ。...
<会社と個人の「時間軸」の乖離>海外市場での事業展開においては、日本市場での事業展開以上に短い「時間軸(テンポ)」で企業活動の成果を確実にあげること、そして成果を持続させることが期待されます。わざわざ外資系企業を受け入れたホスト国のステークホルダーの利益という視点で考えれば、当然のことです。ホスト国の国内企業と大差がないか、それより劣る成果...
洋の東西を問わず、企業のグローバル人材マネジメントの基本は、“本来の”「成果主義」を海外拠点の人材マネジメントの現場に浸透させ、「“成果をあげ続ける”人材集団」を構築することです。そのために、ライン管理者や人事担当部署は、個々の業績目標に関する「戦略性」「時間軸」「歴史観」について組織全体で理解を共有することが大切です。今回のコラムでは、「戦略...
企業経営者やライン現場の管理職の最大の任務は、その企業の存在理由の裏付けとして掲げた経営理念(mission, vision and values)に基づいて全役職員の求心力を高め、組織を構成するメンバーの能力とやる気を総動員して、社内外のステークホルダーにコミットした事業活動の業績目標を達成することです。ビジネスには不確定要因や阻害要因がたくさんありますから、業績目...
人間について人格や「風格」が取り沙汰されるように、企業についても「風格」が話題になることがあります。人間の風格と同様に、企業の風格は一朝一夕に生まれるものではなく、相当程度の歳月を重ねた企業活動を通じて培われ、ホスト国のさまざまなステークホルダーの心に徐々に、しかし確実に浸透していくものです。それは、その企業の規模の大小で評価されるものではなく...
業種の如何を問わず、海外のホスト国で事業活動を行う場合のマインド・セットとして、「よその家の軒下(=海外市場)を借りてビジネス(=市場参入)する機会を与えて頂いている」という「謙虚な洞察」と「感謝の心」がすべてに優先します。進出したばかりで未だ知名度が高くない新興の企業はもちろん、世界的なブランド力や長年の海外事業の実績を誇る企業も、この点に関し...
グローバル・ビジネスの本質は、製品やサービスの深化・革新によって様々な市場ニーズに応えるため、日本だけでは得られない最適の経営資源(management resources)を世界中から総動員させてフル活用することです。経営資源の中でも、特に「ヒト」、すなわち人的資源(human resources)は、その時々の感情や心の動きによって言動が変化する“生身の”人間が対象ですから、...
「グローバル化経済」とは、世界中に偏在する財貨 (goods and services) とそれらを創出する人材を含めた経済資源 (economic resources)を、国や地域を越えて最適に配置・活用し、より多くの人たちの物心両面の豊かさを実現しようとする活動を意味します。現在の私たちの生活は、海外との繋がりなしには語ることはできません。就労人口が減少する日本は、経済大国の中でも国民生...