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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心 日本国内の日常業務から培うグローバルな仕事力

2015.07.13

【グローバル人事管理の眼と心(6)】成果を挙げ続ける人材集団を構築する条件(その1)

定森 幸生

洋の東西を問わず、企業のグローバル人材マネジメントの基本は、“本来の”「成果主義」を海外拠点の人材マネジメントの現場に浸透させ、「“成果をあげ続ける”人材集団」を構築することです。そのために、ライン管理者や人事担当部署は、個々の業績目標に関する「戦略性」「時間軸」「歴史観」について組織全体で理解を共有することが大切です。今回のコラムでは、「戦略性」について考えてみます。

①事業運営と人材確保の「戦略性」

人材戦略とは、さまざまな経営環境の変化に即応して、海外拠点で「やると決めた事業」を、各々の職務に最適の人材を配置して「何としてもやり抜く(成果に結びつける)」ための人的資源の活用方法のことです。したがって、有効な人材戦略の前提条件は、「はじめに明確な事業戦略ありき」ということです。その事業戦略に基づいて、必要な担い手を確保し、その人材に成果をあげさせるためには、次のような戦略性が必要になります。

【事業運営の戦略性】

ホスト国での事業展開に際しては、わが社は、

①なぜそのホスト国市場を選んだのか?
②そのホスト国市場で、今、なぜ、何をしたいのか?
③それにはどの程度の時間を要するのか?
④事業完遂に必要なコストはいくらか?
⑤その事業の収益性はどれくらいか?
⑥わが社の競争優位性はどの程度あるのか?
⑦事業推進の阻害要因・リスクは何か?
⑧目標達成の難易度・成功確率はどれくらいか?
⑨全社的な経営戦略の中でそのホスト国事業の重要度はどの程度か?

などの論点を明確に整理し分析したうえで、目標必達のための事業戦略を策定することが必要です。

 

海外で新規事業の戦略を策定する際に、日本国内での戦略策定に比べて特に注意すべきことは、プロジェクトの着手から採算ラインに到達するまでの時間的見通しと、その後の収益性および利益計画を出来るだけ conservative に評価することです。そのためには、常にホスト国市場の動向や政治的・社会的リスクなどを適時的確に把握し、それらの経営環境の変化に迅速に対応する体制を充実させる必要があります。したがって、人材確保に当たっては、解釈の幅が大きい漠然とした「優秀さ」ではなく、市場動向やリスク管理などの基幹業務を含め、事業運営のさまざまな局面で的確な判断を下し行動する役割に相応しい具体的な「経験やコンピテンシー」を重視した人選が極めて重要です。

【人材確保の戦略性】

事業戦略を実行するために必要な個々の職務を担う人材について、事業目標を達成するために必要な人材の能力要件、適性、人数、予算規模などを詳細に考慮し、個々の職務について、

①なぜ(事業目的)
②何を(業務内容)
③誰に(どのような技能・経験を持った人材)
④いつ (仕事の始まり) からいつ(仕事の終わり)まで
⑤どこで(市場領域、担当部署、就労環境など)
⑥誰と(自己完結か、部下や同僚と一緒か、それ以外に活用できる社内外のリソースが与えられるのか)
⑦どのように(成果の判断基準と期待値)
⑧いくら (競争力のある人件費) で

成果をあげてもらいたいのかを明確に定義することが必要です。これらが、職務記述書(job description)や職位記述書(position description)の主要項目となります。ホスト国の労働市場で、必要な人材を確保する際の報酬レベルの妥当性を判断する際に、これらは特に重要な情報となります。

【人材活用の戦略性】

事業戦略に基づいた人材確保戦略をもとに、事業運営のスケジュールに照らして、どのような人材を、いつ、どれだけ配置する必要があるかが明らかになります。その結果を踏まえて、それらの人材について、

①海外拠点の在籍者の中から、個々の職務について今すぐ誰を起用することが可能か?
②時間的に余裕がある職務については、在籍者の中の誰をいつ頃までに育成して起用することが現実的か?
③すぐに必要な人材が海外拠点にいない場合、ホスト国の労働市場で新規に採用するのか?それとも、本社社員の中から適任者を派遣するのが合理的か?
④本社社員を派遣する場合、その派遣期間中に具体的に何をいつまでに達成させるのか?
⑤その社員の海外での職務経験を、その本社社員のその後のキャリア形成にどのように活かすのか?
⑥その社員の本社での職務を当面誰に担わせるのか? その結果、本社サイドでの人員配置を見直す必要はあるか?

などについて、あらゆる角度から検討します。これが人材戦略の基本となる人員計画です。

 

これらのプロセスがすべて整ったうえで、もし計画どおりに事業運営が進んでいない場合には、それぞれのライン管理責任者が、個々の業績責任を負う担当者と一緒に業務のプロセスや進捗状況を振り返り、成果をあげるうえでの阻害要因や不足しているリソースなどを特定し、それを克服する具体的な方法を見出すことが、“成果をあげ続ける”人材集団を確保するためには欠かせません。

次回は、会社と個人の「時間軸」について考えてみます。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE
1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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