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COLUMN コラム

グローバル人事管理の眼と心 日本国内の日常業務から培うグローバルな仕事力

2017.02.13

【グローバル人事管理の眼と心(26)】職務能力評価の変遷とコンピテンシー・モデル(その4)~政府機関でのコンピテンシー活用の実例:英国の国家公務員Fast Stream採用試験~

定森 幸生

国家公務員の仕事の守備範囲が多岐にわたり、国の内外を問わず行政サービスに対する国民の質的要求度や期待値が高まることに呼応して、公務員の選考過程にコンピテンシーの概念を採用する動きは、英国においても認められます。

英国の国家公務員は、上級公務員(Senior Civil Services: SCS)と一般公務員に分類され、一般公務員も管理職と事務職に分類されます。上級公務員は、Grade 1(内閣官房長、事務次官級)を最上級のポジションとし、Grade 5が本省課長級、Grade 6 & 7が課長補佐級に当たります。

英国には、潜在能力の高い優秀な大卒者を幹部候補生として採用し、課長補佐級(Grade 6 & 7)に達するまで必要な研修を付与し、最終的には本省課長級以上に達することができるコンピテンシーを具備させることを目的とした、ファースト・ストリーム(Fast Stream)とよばれる幹部候補生の採用・育成制度があります。その制度の対象者は Fast Streamerと呼ばれます。制度の基本的なコンセプトは、米国務省の外交官選考と共通しており、学業成績偏重を避け、政府機関の優秀な公務員とのチームワークで効果的な行政サービス任務の遂行ができるコンピテンシーを、国家の組織を挙げて開発することを目指しています。

英国Civil Service の公式サイトには、上級公務員、一般公務員およびFast Streamer、さらには事務職までを含めた英国の国家公務員に求められるコンピテンシーが44ページにわたって詳細に定義された、最新のCivil Service Competency Framework 2012-2017が掲載されています。この枠組みの中では、コンピテンシーとは、「行政サービスの提供を成功裏に達成する技能・知識・行動(skills, knowledge and behaviours)」と位置付け、10種類のコンピテンシーが下記の3つのクラスターに大別されています。

戦略の視点 ― 方向性を定める (Strategic Cluster - Setting Direction)

  1. 1.大局的見地から物事を把握する ―行政目標を達成し行政サービスを価値の最大化するために貢献できる活動を広い視野から判断する。(Seeing the big picture – Focusing your contribution on the activities which will meet Civil Services goals and deliver the greatest value.)
  2. 2.変革と改善 ― 過去の成功と失敗から学び、変革や改善に積極的に取り組み、より戦略的で集中的に仕事をする。(Changing and improving – Learning from what has worked as well as what has not, being open to change and improvement, and working in ‘smarter’, more focused ways.) 
  3. 3.実効性のある意思決定 ― 良識と証拠と知見に基づいて正確かつ専門的な決断や助言をする。(Making effective decisions – Using sound judgment, evidence and knowledge to arrive at accurate, expert and professional decisions and advice.)

人材の視点:人と協働する (People Cluster – Engaging People) 

  1. 4.統率力とコミュニケーション能力 ― 行政官としての誇りと情熱を示し、目的や方向性を明確に、誠実に、熱意をもって話し合う。(Leading and communicating – Showing our pride and passion for public service, communicating purpose and direction with clarity, integrity and enthusiasm.) 
  2. 5.協調・連携関係の構築 ― 憶測や仮説は勇気をもって吟味する姿勢を示すことにより、情報の適切な共有と公務員および公務員以外との間の協力・信頼関係や専門的な仕事の繋がりを構築し、関係者との連携を深める。(Collaborating and partnering – Working collaboratively, sharing information appropriately and building supportive, trusting and professional relationships with and outside the Civil Service, whilst having the confidence to challenge assumptions.) 
  3. 6.組織全体の能力開発 ― 自身の行政能力向上のための現在の知識やスキルセットの維持・進化させるため、旺盛な学習意欲をもつ。(Building capacity for all – Being open to learning, about keeping one’s own knowledge and skill set current and evolving.) 

業績の視点 ― 行政サービスの価値評価  (Performance Cluster – Delivering Results)

  1. 7.民間経済への貢献 ― 全ての行政活動や行政サービスが付加価値を提供し民間経済の成長に刺激を与えるため、商業面、財務面、持続性の観点に立った発想をもつ。(Achieving commercial outcomes – Having a commercial, financial and sustainable mindset to ensure all activities and services are delivering added value and working to stimulate economic growth.) 
  2. 8.コストに見合った価値ある行政サービスの提供 ― 行政サービスの質と費用効率の高さのベストミックスを実現できる解決策を模索し実行する。(Delivering value for money – Seeking out and implementing solutions which achieve the best mix of quality, and effectiveness for the least outlay.)
  3. 9.質の高い行政サービスの実現 ― 多様な顧客の行政サービスに関するニーズを考慮しながら優れた専門性を駆使してサービス目標を実現する。(Managing a quality service – Valuing and modeling professional excellence and expertise to deliver service objectives, taking account of diverse customer needs and requirements.)
  4. 10.迅速な行政サービスの提供 ― 合意した目標や活動を実行し、困難な課題に対し正面から建設的に取り組む。(Delivering at pace – Working to agreed goals and activities and dealing with challenges in a responsive and constructive way.)

上記10種類のコンピテンシーは、さらに6つのレベルに分けられ、それぞれのレベルについて、職務遂行のために効果的な行動例と効果的でない行動例がそれぞれ数点ずつ列挙されています。
例えば、上記1.Seeing the big picture のコンピテンシーのうち課長級のポジションについては、下記のような行動例が記載されています。

【効果的な行動例】

経済、政治、環境、社会、技術等の問題を含む国内外の様々な情勢・動向が、自身の担当行政分野に与える長期的な影響を予測する。(Anticipate and predict the long term impact of national and international developments, including economic, political, environmental, social and technological, on own area.)

自身の守備業務が、所属部局の業務ニーズや公益・経済的利益に関する国益の優先度に合致しているかを検証する。(Identify and shape how own area fits within and supports the work of Department and priorities for the national interest, public and economic good.)

【効果的でない行動例】

自身の守備業務を取り巻く環境変化や情勢・動向についての認識が不十分である。(Having limited insight into the changes and developments surrounding own area.)
戦略の策定に当たって、行政部局間および政府機関以外の組織との交流や重要な課題に対する問題意識が希薄である。(Give limited attention to the bigger issues and interactions across departments and outside the Civil Service when defining strategy.)
英国のFast Streamerの採用プロセスでは、米国と同じように筆記試験(online test)、グループ演習(assessment centre)、面接の3種類の選考ステップが設定されています。上記の Competency Framework に掲載されたコンピテンシーは、 グループ演習を通して幹部候補生としての潜在力や適性の判定に使われるほか、採用後のコンピテンシー開発、業績評価にも活用されます。

これらのコンピテンシーの適用対象は国家公務員ですから、細かい点では民間の営利企業の社員に直接適用できない場合がありますが、本質的な業務遂行能力の開発と業績評価のツールとしては、民間企業においても大変示唆に富む内容ですので、Competency Framework(上記URL参照)は一読の価値があります。

定森 幸生

Yukio Sadamori

PROFILE
1973年、慶應義塾大学経済学部卒業後、三井物産株式会社に入社。1977年、カナダのMcGill 大学院でMBA取得後、通算約11年間の米国・カナダ滞在を含め約35年間一貫して三井物産のグローバル人材の採用、人材開発、組織・業績管理業務全般を統括する傍ら、日本および北米の政府機関・有力大学・人事労務実務家団体・弁護士協会などの招聘による講演、ワークショップ、諮問委員会などで活躍。『労政時報』はじめ人事労務管理専門誌への寄稿・連載も多数。2012年に三井物産株式会社を退職後、グローバル・プラットフォーム設立。企業や大学の要請で、グローバル人材育成関連のセミナーやコンサルテーションを実施する一方、慶應ビジネススクール、早稲田ビジネススクールで、英語によるグローバル・ビジネスコミュニケーション講座を担当、実務家対象の社会人教育でも活躍中。

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