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COLUMN コラム

チャオプラヤー川に吹く風 タイ人の暮らしと文化

2015.01.05

【チャオプラヤー川に吹く風(20)】タイの食文化 その4~現代タイの食文化

齋藤 志緒理

バンコクのある家庭の夕 餉。食卓のおかず4品の内2品は市場の惣菜店のもので、2品は家で調理された。(筆者撮影)

前号では、タイの食文化が近代化の過程で、どのように変化していったかに注目しました。今号では20世紀後半以降に光を当てます。

●「タイ料理レストラン」と「外国料理レストラン」の展開

1960年代以降、タイ国の経済発展に伴って、多くの中・高級ホテルが建設されました。ホテルには複数のレストランをもつものも少なくなく、西洋料理、中華料理に加え、タイ料理レストランも続々と誕生しました。その背景には、「タイ料理を食べてみたい」という外国人居住者や旅行者のニーズと、タイ料理を(日常食を離れた)「ご馳走」として食べたいというタイ人富裕層のニーズがありました。そうしたレストランで出される料理は、食べ手の嗜好に配慮して辛味が抑えられるなど、調味法が本来のタイ料理とは異なるものでした。

外国人旅行客や居住者の増加にともない、インド料理、フランス料理を中心とした、各国料理のレストランが増えたのも1960年代でした。タイ人のための西洋料理店は、1970年代から少しずつでき始め、パンやケーキ、パイなどを供するようになりました。

●外国料理の普及

こうした外国料理レストランの中で、庶民的なものは、次第にタイ人が外食をする際の選択肢に加えられるようになりました。山田均は、その背景として、「サリット政権以来の開発路線の中で、バンコクにも地方にも大学や高等教育機関が新設されたことと、経済の好転によって、社会に余裕ができ、学生や若者という新たな消費者層が生まれたこと」を挙げ、その結果として、「新しい繁華街ができ、新しいかたちの食堂が求められた」と述べています。(『世界の食文化(5)-タイ』農文協 p.129)

日本料理については、戦前にも営業している店があり、1970年代以降は、日本人旅行者、出張者、赴任者の増加を反映して、市街地や高級ホテルの中で続々と開業されるようになりました。その後、日本料理はタイの一般市民にも受け容れられるようになり、現在は多くのショッピングモールのレストラン街に和食店が出店しています。

筆者の経験から申せば、和食を初めて食べたタイ人は「淡泊だ」「味が薄い」といった感想をもらすことが多いように思います。しかしながら、元来米食を基本とするタイ人の嗜好に合ったのか、日本料理は、数ある外国料理の中でも、とりわけ市民権を得ているように見受けられます。西洋料理やインド料理は、「たまに珍しいものを食べたい」という感覚で食されるのに対して、日本料理には、ごく日常の外食の機会にも選ばれるような、敷居の低さを感じます。

●現代の外食文化

交通網の整備(幹線道路の建設、バス路線の拡大)によって、首都バンコクが拡大すると、1980年代中ごろから、郊外に広大な敷地を擁する大型レストランが登場するようになりました。そこでの中心的メニューはタイ料理でした。

元々、タイ人にとっての外食時のご馳走は中華料理でした。(現在でも着席式の結婚披露宴では、「ト・チーン」と呼ばれる中華のコース料理がよく出ます。)それが、「タイ料理が外食時のご馳走ともなる」という風に大勢が変わってきたのが、この時代です。

なお、タイ人の外食の際のチョイスとして常に上位に来る「タイスキ」は、1960年代以降に登場したもの。上掲書によると、「タイスキは、日本のすき焼きにヒントを得たとも、しゃぶしゃぶをタイ風にアレンジしたものとも言われるが、はっきりしない」(p.136)とのことです。

●スーパーマーケットの登場

都市化が進み、バンコクが巨大化することによって、遠距離通勤者も増加しました。職住接近の時代は、仕事帰りに市場に寄り、総菜を買って帰宅することができました。しかし、家が勤め先から遠くなり、交通渋滞の影響を受けるとなれば、市場が開いている時間に帰宅することができません。こうした時代の流れを受けて、古くから存続していた市場が衰退し、閉鎖の憂き目をみるようになりました。

タイでスーパーマーケットが登場したのは1980年代前半です。市場よりも営業時間が長いスーパーは、価格面では市場よりも高くはなりますが、「清潔さ」「便利さ」を売りに、着実に需要を伸ばしてきました。郊外には、自家用車をもつ層が週末のまとめ買いに利用する大型スーパーも存在します。

●家庭料理

従来、一般タイ人の家庭の食卓に上ったのは、ご飯と魚、野菜(生野菜かボイル)、果物などの質素な食事でした。農村部の人々は、今でもそういうシンプルな食生活をしており、手の込んだ料理を作るのは、結婚式(式を自宅で行う場合に僧侶や来賓をもてなす食事)や仏教行事(親族の出家式や、“タンブン”の諸儀式で寄進する食事)などの機会に限られます。

結婚式のお祝い料理は、招待客の数にもよりますが、数十人分を用意します。近所の主婦や親類縁者が手伝い、いくつもの大鍋で煮炊きする光景は、それは賑やかなものです。普段の食事が質素なだけに、ご馳走料理を作り、食べることが、より晴れがましく感じられるのです。

一方、都市部(バンコク市内や地方の市街地)では、外食するか、おかずを買ってきて食べる人が多数派です。日常的に家庭で一から調理する人の割合は非常に低いと言ってよいでしょう。

さて、次号では、タイの地方料理の特色について述べたいと思います。

齋藤 志緒理

Shiori Saito

PROFILE
津田塾大学 学芸学部 国際関係学科卒。公益財団法人 国際文化会館 企画部を経て、1992年5月~1996年8月 タイ国チュラロンコン大学文学部に留学(タイ・スタディーズ専攻修士号取得)。1997年3月~2013年6月、株式会社インテック・ジャパン(2013年4月、株式会社リンクグローバルソリューションに改称)に勤務。在職中は、海外赴任前研修のプログラム・コーディネーター、タイ語講師を務めたほか、同社WEBサイトの連載記事やメールマガジンの執筆・編集に従事。著書に『海外生活の達人たち-世界40か国の人と暮らし』(国書刊行会)、『WIN-WIN交渉術!-ユーモア英会話でピンチをチャンスに』(ガレス・モンティースとの共著:清流出版)がある。

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