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COLUMN コラム

チャオプラヤー川に吹く風 タイ人の暮らしと文化

2016.12.12

【チャオプラヤー川に吹く風(45)】贈り物にまつわるあれこれ

齋藤 志緒理

バンコクのラチャダムリ通りに面した大型ショッピングセンター「セントラル・ワールド」。向かって左側にはZENデパート、右側にはバンコク伊勢丹が入っている。(筆者撮影)
バンコクのラチャダムリ通りに面した大型ショッピングセンター「セントラル・ワールド」。向かって左側にはZENデパート、右側にはバンコク伊勢丹が入っている。(筆者撮影)

今年も師走に入りました。タイ人の越年の模様については、昨年12月に本連載(32)で「タイのお正月」と題して書き、その中で、タイ国には年末から年始にかけて、日頃お世話になっている人に贈り物をする習慣があることに触れました。今号では、そうした“季節的な贈り物”以外の、社会生活における贈答事情を紹介します。

●「お返し」は必要か?

個人差はあるでしょうが、日本人は一般的にいただきものをすると「お返し」を考えます。会う機会が作れず、なかなかお返しができないこともありますが、いただきっぱなしになっていると、何か先方に対して「借り」があるような申し訳ない心情になり、そのバランスを平衡に戻すために、「こちらからも何か」という思いに駆られます。また、「結婚祝い」「出産祝い」など、吉事を寿ぐためのお祝いを受けたら「内祝い」を返す習わしがあります。

翻って、タイ国ではどうかというと、日本の「内祝い」に相当する慣例はありません。プレゼントをもらい、返礼に何かを贈る人はいますが、双方が対等な関係でない場合は、「常にあげる側」「常にもらう側」・・・という風に立場が固定し、ずっと変わらないことも。その場合、もらう側がもらいっぱなしであることを気にすることはなく、あげる側がお返しを期待することもありません。

総じて、お返しが必須ではない、あるいはお返しを焦る必要はないお国柄と言えます。タイ人から何か贈り物を受けて、お返しをする際は、急いて形式的・儀礼的な返礼になってしまうよりは、時機を待ち、気持ちをこめてお礼をする方がよいでしょう。相手が忘れた頃に感謝のしるしを届けると、「ずっと心に留めていてくれたのか」とかえって胸に響いたりもします。

●「ありがとう」は一度だけ

タイ人は、いただきものをしたら、その場で「ありがとうございます」とお礼を述べます。

日本人は、後日「あなたにいただいた○○は、とても使い勝手がよくて、我が家で大活躍しています」「あなたにいただいた○○、とてもおいしくいただきました」などと、改めて謝意を伝えることがよくあります。その方が、(もらった時だけお礼を口にするよりも)丁寧で、感謝の思いが伝わるという意識があります。

しかしタイ人は、次に会った折に改めてお礼を言うことはあまりありません。これは、例えば上司が部下をご馳走した場合も同じです。部下はレストランを出た時に「ありがとうございました」と言うでしょうが、翌日会社で顔を合わせ、「昨日はご馳走さまでした」と重ねてお礼を口にすることはありません。

日本人の感覚を持ち込むと、こうしたタイ人のリアクションがどこか淡泊に見え、寂しく感じることがあるかもしれません。

実際のところはどうかといえば・・・タイ人にとって、お礼を重ねて述べることは、「また同じ贈り物を期待しています」というメッセージになってしまうようです。ご馳走になったことへのお礼を何度も述べるのも同じで、「またご馳走してほしい」という意味合いに受け取られてしまう恐れがあります。

一度きりしかお礼を言わなかったとしても、それは決して彼らが「恩知らず」なわけではないということを、タイ人と接点がある方は、頭の隅に置いておかれるとよいと思います。

●ラッピング

日本では、贈り物が老舗デパートの包装紙にくるまれていたりすると、もらった方は「しっかりしたお店で、確かな品を選んでもらった」という印象をもちます。遠方であれば「そのデパートまでわざわざ足を運んでくれた」(最近はオンラインでも購入できますが)ことも含めて、感謝の念を抱くかもしれません。つまり、包装が中身に付加価値を与えています。

タイではどうかというと、そもそもプレゼントをする際に日本ほどラッピングが重視されません。包まずに、購入した店の紙袋に入れたまま渡すことも普通です。デパートなどに有料のラッピングサービスコーナーもありますが、そうしたサービスを利用するのは、結婚祝いや出産祝いといった特別なお祝いの品を進呈する時で、平素は贈り物をあげる方ももらう方も、包装にはあまりこだわりません(例外として、仏教の功徳を積む行為の一環として、寺院に「タンブン」する時は、寄進する品物をきれいにラッピングします)。

ラッピングの必要度はともかくとして、ひとつ言えるのは、筆者が在タイしていた1990年代よりは商品パッケージが格段に美麗になってきていることです。これは高価格帯の品物に限ったことではなく、食品やお菓子など、市民が日常的に購入する品々の包装も然りです。商品の元々のパッケージだけで(それを重ねて包装紙でくるまなくても)十分に贈り物としての体を成せるという状況もありましょう。

●プレゼントしてはいけないもの

タイ人にプレゼントしてはいけないものの代表は「ハサミ」「ナイフ」などの刃物です。「刃物=相手との縁を切るもの」と考えられるからです。

しかし、刃物類は絶対に贈り物にできないわけではありません。筆者はタイ人に刃物をいただいたことがあり、意外な「抜け道」を知りました。

タイでは、フルーツカービング(スイカなどの果物に美しく彫刻を施す技術)が一つの芸術の域に達していますが、留学を終え帰国する前に友人から「ぜひタイの文化を持ち帰ってほしい」と、カービングの解説本と専用のナイフをプレゼントされたのです。その時、友人に「刃物なので、1バーツ硬貨を下さい」と言われました(1バーツは当時も本稿執筆現在も約3円)。これは「贈ったのではなく、買ってもらった」という形を作り、「忌み行為」を回避するためです。

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以上、タイ国での贈答事情について何点か記しました。文化の違いはありますが、「相手が何を喜んでくれるか」を一番に考えての品物選びが肝要なのは、いずこも同じです。付き合いの深度によっては、相手の趣味や家族構成なども踏まえてプレゼント選びをすれば、受け取り手に一層喜ばれることでしょう。

齋藤 志緒理

Shiori Saito

PROFILE
津田塾大学 学芸学部 国際関係学科卒。公益財団法人 国際文化会館 企画部を経て、1992年5月~1996年8月 タイ国チュラロンコン大学文学部に留学(タイ・スタディーズ専攻修士号取得)。1997年3月~2013年6月、株式会社インテック・ジャパン(2013年4月、株式会社リンクグローバルソリューションに改称)に勤務。在職中は、海外赴任前研修のプログラム・コーディネーター、タイ語講師を務めたほか、同社WEBサイトの連載記事やメールマガジンの執筆・編集に従事。著書に『海外生活の達人たち-世界40か国の人と暮らし』(国書刊行会)、『WIN-WIN交渉術!-ユーモア英会話でピンチをチャンスに』(ガレス・モンティースとの共著:清流出版)がある。

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