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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2015.01.19

マーライオンの眼差し(1)曲がり角

矢野 暁

シンガポール人の8割は公団住宅HDBに住む(筆者撮影)

ますます発展するアジアの金融センター(筆者撮影)

読者の皆様、明けましておめでとうございます。いよいよ2015年の幕開けですね。シンガポール居住者として、今年は2つの意味で、特別な年です。一つは、シンガポールが独立50周年を8月に迎えること。もう一つは、いよいよ今年の終わりにASEAN経済共同体(AEC)が始動する「予定」です。

8月9日の50周年(SG50)記念日に向けて、専用ウェブサイトwww.singapore50.sg/が立ち上がり、特別イベントも開始されるなど、盛り上がりつつあります。しかし、浮かれてばかりもいられないのが実情です。

僅か半世紀の間に世界有数の近代都市国家、そして富裕国に一気に上り詰めたこの国は今、政治・経済・社会のあらゆる面で、曲がり角に差し掛かっています。成熟の域に達しつつある小さな島国にとり、次の半世紀の展開は今までよりも厳しいチャレンジとなるかもしれません。

また、加盟国間の発展段階や政治体制が異なるASEANが、より一層ボーダレスな経済地域を目指してスタートラインに立とうとしていますが、これも一筋縄では行かないでしょう。そもそも今年末までにASEAN各国首脳が握手できるか、予断を許しません。悲観的な見方も多くあります。実現すれば、域内外の企業にとってビジネスの機会や選択肢が広がる一方で、熾烈な競争に晒されるASEAN加盟国間の経済格差がむしろ広がり、統合とは反対のナショナリスティックな方向に向かわせてしまう恐れもあります。ASEANは決して一枚岩ではありません。昨今のEUを見ていると、「将来のASEANは大丈夫か?」と不安視せざるを得ません。

 

ASEANビジネスの中心地であるシンガポールで事業活動をする上で、こうした大局的な動向を頭の片隅に置いておくことは欠かせません。ひと頃の「ASEANブーム」「シンガポールブーム」からは少々落ち着いた感じがしますが、短期的な勢いに乗ってやってきた日本企業の多くが、予想以上に苦戦したり、既に撤収したりしています。

私も目先の趨勢だけに囚われずに、過去も未来も出来るだけ長めのスパンで眺めるよう努めています。1980年代のインドネシアを皮切りにASEANの様々な国で仕事をしてきましたが、シンガポールの島民になってからは今年で14年。7年間生活をしたベトナムの首都ハノイからの移住でした。開発の幕が上がったばかりのベトナム、しかも当時はまだ村社会の雰囲気が色濃かったハノイからやって来たので、便利で豊かなシンガポールは全く異質の世界でした。最初に訪れたのは1987年、社会人なりたての頃でしたが、それから約30年間、この国やASEAN諸国の移り変わりを見てきました。

50年を予測するのは難しいですが、少なくともこれからの5~10年間くらいのシンガポールやASEANがどうなりそうか、過去を振り返り、現状を直視しつつ、新年にあらためて考えを巡らせています。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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