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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2015.05.11

マーライオンの眼差し(5)カリスマ・リーダー、逝く ②

矢野 暁

ラッフルズ卿が上陸した場所に立つ像の台座に刻まれた銘文(筆者撮影)

リー・クアンユー死去の訃報を世界に伝えるBBCニュース(筆者撮影)

<価値の発見>

近代シンガポールの幕を開けたのは、1819年にシンガプーラに上陸した英国人スタンフォード・ラッフルズです。150人足らずの住民しかいなかったと言われる漁村シンガポールの戦略的有用性をラッフルズ卿が見出すことがなければ、今のような近代国家にはなっていなかったことでしょう。「無に見えるものの中に大きな価値を見出す」という能力は、私たちビジネスパーソンも養わなければなりませんよね。

ラッフルズ卿は多くの不運に見舞われた人ですが、自らの努力で道を切り拓き、彼の生き様は現代を生きる私たちにとっても多くの示唆に富でいます。歴史上の興味深い人物ですので、シンガポール日本人会のウェブサイトに掲載されている「シンガポール人物伝~トーマス・スタンフォード・ラッフルズ」をまだご覧になっていない方は、ご一読をお薦めします。

www.jas.org.sg/magazine/yomimono/jinbutsu/raffles/raffles.html

<創業社長の覚悟>

さて、前回に引き続き本題は、3月23日に他界したリー・クアンユー元首相です。ラッフルズ卿が見出した価値は英国植民地下で、ハードとソフトの基礎インフラという形となり、これを土台に国家を築いたのがリー氏です。

リー氏は、親会社(マレーシア)から突如放り出されたベンチャー企業を経営してきたようなもの。しかしそこには200万人もの人口がいたわけで、小島とは言え、巨大なベンチャーを背負ったことになります。当時世界中から「この小国は長くはもたないだろう」と思われ、リー氏は途方に暮れたようです。ですが、「見返してやるぞ」くらいの強い決意の下で国家建設に邁進しました。

シンガポールには伝統も文化もなかったので、守るべきものはありませんでした。作るのみだったわけです。経済発展に直結する政策・施策を推し進めるために、能力のあるエリートを幼少時から育成し、国政に登用する。不要なことはしない、邪魔しようとする者は排除する。国民の生活にも介入する。極めて現実的・実益的であると同時に、権威主義的でもありました。リー氏からすれば、それは必然の統治スタイルだったのでしょう。同氏を筆頭に、一握りの指導者たちがぐいぐいと国を引っ張っていきました。

権威主義や能力主義に加えて、リー氏は、「経済至上主義」、「多人種主義」、「実用主義」など数々の主義を根幹に据えつつ、開発独裁のスタイルで「選択と集中」を果敢に計画・実行。そこには長期的な「ビジョン」、「変革」への覚悟、そして強力な「リーダーシップ」がありました。同氏は国内外からの批判や反対意見をことごとく跳ね除けながら、結果を示すことで大多数を納得させたのです。

<新たなステージへ向けた変革>

リー氏亡き後のシンガポールはどうなるのか? 同氏長男のリー・シェンロン現首相は、建国の父のようなカリスマ性は持ちえない。これは仕方のないことです。それでも、小国のサバイバルのために、賢く素早く走り続けなくてはならないことでしょう。市民(有権者)も世代交代が進み、政治や国家に求める内容や優先度に変化が見られます。そうした市民の大多数を満足させるために、既に世界有数の富裕国にまで到達した国を、これからどこへ、どうやって導くのか? 故人の偉業を引き継いでいくリーダー達は大変だなあ、とつくづく思います。国内外の環境が変化する中で、必要な変革を恐れずに実行できるかどうか、今後の「シンガポール株式会社」の経営の成否に大きく影響することでしょう。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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