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2015.07.06
矢野 暁
去る6月16日、東南アジア域内のイベントSEA GAMES(シーゲームズ)が、約10日間の日程を無事に終えました。ご存じない方は「SEA GAMESって何?」と訝ることでしょう。
単純に字面から連想されるのは「海上ゲーム」、すなわちマリンスポーツの大会です。政治・外交好きの人なら、GAMESには駆け引きや演習という意味があるので、昨今の南シナ海における領有権問題を巡っての中国・東 南アジア諸国間のつばぜり合いのことか?などと想起するかもしれません。(いや、しないでしょうね!)いずれにせよ、東南アジアに何年か生活していないと、日本人を含め域外人には聞いたこともない名称です。
これは東南アジアのスポーツ競技大会、いわば地域限定のオリンピックのようなものです。もちろん身体障害者向けのパラ競技会も含んでいます。1959年のタイでの第1回大会を皮切りに、2年に一度の頻度で開催されています。その第28回大会が、6月5日からシンガポールで開催されたのです。
我が家もベトナム人の妻とシンガポール生まれの日越ハーフの息子を連れて、水球やバスケの試合を観戦に行きましたし、当社にいるシンガポール人、マレーシア人、ベトナム人などのスタッフたちもそれぞれ応援に行ったようです。
さて、競技大会の結果はと言いますと、金メダル数ではタイ、メダル総数ではシンガポールが首位でした。開催国が上位に来ることは多く、前回の第27回大会では開催国ミャンマーが金メダル数で2位、前々回の第26回大会では開催国インドネシアが金メダル数・メダル総数ともに首位でした。毎回安定して上位にいるのはタイです。
いずれにせよ、上位5~6ヵ国の間では、メダル数に物凄く大きな差が出るわけではありません。これがSEA GAMESが域内で盛り上がる理由の一つです。すなわち、オリンピックやワールドカップのような世界的な大会は、東南アジア諸国の大部分の競技選手にとり縁遠い存在であり、アジア競技大会ですと、中国や日本・韓国が多くのメダルを獲得するため、東南アジア諸国の選手がメダルを獲得できる種目や数が限られてしまいます。 しかし、域内競技選手だけですと力が拮抗するので、選手も観客も身近に感じてエキサイトできるわけです。しかも、セパタクローやペタングのような東南アジアの伝統競技が盛り込まれているのも、魅力の一つです。
一つお遊びがてら(というと不謹慎かもしれませんが)、各国のメダル数を人口で割ってみました。すると下図のとおり、100万人当たりのメダル数はシンガポールが断トツです。開催国であることに加えて、建国50周年記念日を迎える直前の大会ということもあり、運営面でも選手強化にも特別な気合が入っていたことは事実でしょう。また総選挙も1年以内に実施されるので、スポーツを通じて国威発揚・一致団結を図り、政治的にかつてないほど危機感を抱いている与党に追い風を吹かせたい、という期待もあったかと思います。
他の参加国の中には、シンガポールは「外部人材」の登用ゆえにメダル数が激増した、とのやっかみもあるようです。これはどういうことかと言いますと、中国人などの外国人選手を招き入れシンガポールに帰化させることにより、スポーツ強化を図っているのです。代表選手の中には西洋人もいました。
これは、ビジネスや科学技術の領域と同様に、人的資源が限られている国が結果を出すために、外から有能な人材を積極的に採り入れ、他の潤沢な資源・資質(お金や施設、計画・運営力など)と融合させることで価値・結果を生み出す、ということをスポーツにも適用していることを示唆しています。そもそも移民で成り立っているこの国では、当然のことなのかもしれませんね。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano