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2015.08.03
矢野 暁
私がベトナムからシンガポールに移住してきた2001年当時は、外国人が就労許可を取得するのはさほど難しくありませんでした。それまで住んでいたベトナムのみならず、自分の業務範囲である東南アジアのタイ、マレーシア、インドネシア等々の国はこれが結構厄介だったので、「シンガポールはなんて開かれた国なんだろう」と感心していたものです。当時は就労許可の種類に関すること以外は、あまり話題にも上りませんでした。また、企業等の組織から一定期間赴任されている方々にとってはあまり関係ないでしょうが、私のように自分で事業を営み無期限で定住する者にとっては、申請をすれば永住権(PR)も比較的容易に取得できたものです。
ところが今は様相が全く異なっています。日本企業を含む大部分の外資企業にとり、「シンガポール人・PR保持者以外の雇用」が従来よりも難しくなり、頭の痛い問題となっているのです。実際には地場のシンガポール企業の多くも、自国民だけではカバーし切れない業務に必要となる外国人を十分に雇用できず、事業運営に支障が出ているほどです。また、PR保持者の人数は正味ベースでは減少傾向にあり、申請しても面接は半年以上先で、現状は「例外的に」承認されているという雰囲気です。
まず今回のコラムでは、最も直近の動向に触れます。専門職(Professionals)・管理職(Managers)・幹部職(Executives)を総称してPMEsと呼んでいますが、シンガポール人材省(MOM)はさる7月8日、これらの職にシンガポール人がより多く就けるようにと新たな措置を発表しました。以下、特に重要と思われるポイントです。十分にご注意下さい。
1)既にご存知の通り、2014年8月1日以降、外国人を雇用するために新たにEP申請を行う予定の企業は、申請に先立ち、同条件の求人広告をシンガポール労働力開発庁(WDA)が運営するオンライン求人サイトJobs Bankに最低14日間の掲載義務を負うことになっています(労働者数25名以下の企業または月額固定給が12,000シンガポールドル以上の職種は免除)。本年10月1日より、このJobs Bankに給料(salary range)を明記せずに求人情報を掲載した場合、そのポジションへのEP申請は却下されることになります。したがって、シンガポール人の求職者の中に適任者がいない場合の外国人雇用を念頭に置いている場合、必ず給与水準を明記しておいて下さい。
2)同業他社に比べてPME職のシンガポール人の比重が小さい企業については、EP申請に対する審査で綿密に調べ上げられます。こうした企業は、シンガポール人求職者が公平に考慮されたか否かをチェックするための追加情報の提出をMOMから求められることになります。例えば、対象ポジションに対するシンガポール人求職者数、面接実施の有無、各レベルにおけるPME職シンガポール人の割合の現状などが、こうした情報としてありえます。
3)また、PME職に就く外国人も、就労許可申請時にクオリティが厳格にチェックされるようになります。今までMOMは、①資格(qualifications)、②経験(experience)、③給与(salary)をベースに評価していましたが、学位や業務経験などの中身については「見せかけ」の申告も多かったようで、今後は当該PME職に相応しいバックグランドを本当に持っているのか、より具体的に詳しく吟味されることになります。
もう一点、重要な変更が9月1日より実施されます。DPのスポンサーとなるためには、EP・Sパス保持者共に従来は4,000ドルの月額固定給が最低ラインでしたが、これが5,000ドルへとアップします。親の長期滞在をスポンサーする場合には、これが1万ドルとなります。9月1日の申請分から適用され、それ以前の申請分には適用されません。また既に帯同者のビザを取得済みの場合、EP・Sパス保持者の雇用に変更が無い限りにおいて、更新時の条件は従前のままとなります。こちらも、どうぞお気を付け下さい。
次回のコラムでも、外国人雇用の規制強化をテーマにして書きたいと思います。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano