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2015.09.28
矢野 暁
去る9月11日、シンガポール国会(一院制)の議員総選挙の投票が実施されました。前回2011年5月の総選挙で与党の人民行動党(PAP)は、建国以来の屈辱的な低得票率という形で一般国民からの「不満」を突き付けられたので、今回の選挙はその流れを引き継いでPAPへの不支持が勢いを増すか、はたまたPAPが巻き返しを実現できるか、国内外が注目していました。
PAPが議席の大部分を確保し与党であり続けるのは初めから分かり切ったことですが、得票率が前回の6割を切ったり、あるいは同程度の水準に終わったりするのか、7割程度にまで大幅に回復するのか、建国50周年を8月に祝ったばかりのシンガポールにとって、やや大袈裟な言い方をすれば、次の半世紀を占う「天下分け目の決戦」的な緊張感が漂っていました。
しかし蓋を開ければ、21歳以上の有権者約250万人の票は、PAP党首であるリー・シェンロン首相の「勝利宣言」へと導いたのです。シンガポールの有権者は投票義務を負いますので、投票率は毎回9割を越します。したがって、得票率は国民のほぼ全体の選択を反映していると言えるでしょう。前回の6割から7割へと得票率を伸ばしたことで、PAPは安堵していると同時に、ある程度は自信を取り戻したことと思います。
極めて慎重に選挙のタイミングを設定し、それに向けて矢継ぎ早に庶民寄りの諸政策を打ち出してきた与党政府としては、ほぼ筋書き通りの結果だったはずです。他方、労働者党(WP)を筆頭とする野党8党の力不足があらためて浮き彫りとなりました。私たちのよく知るどこかの島国もそうですが、細分化した政党が多数あるより、与党の対抗軸となり得るように野党勢力が結集する方がよいと個人的には思いますが、自分の国のことではないので余計なお世話ですね。
前2回のコラムで「外国人雇用の規制強化」について触れましたが、今回の選挙結果はシンガポールで労働・生活する、あるいは今後しようとする外国人にどのような影響をもたらすのでしょうか? 選挙前から、与党が大勝すれば外国人締め付けの流れが緩やかになるのでは?という見方が少なからずありました。
中長期的にはその可能性が高くなったかもしれません。ですが選挙に勝ったからと言って、急激に緩和することは恐らくないでしょう。むしろ路線としては、過去3年ほどの引き締めを踏襲するように思います。少なくとも国民に対して表向きはそうしたポーズを示さないと、政治的にもたないでしょう。
そうした路線の中で、移民を含めた外国人をどのように、どれだけ活用できるか、シンガポール市民優先政策との微妙なバランスを如何に取り続けるか、これがこれからの半世紀にわたる経済発展のキーポイントの一つとなることは間違いないと考えます。
まだ選挙が終わったばかりですので、今後少なくとも1~2年の政策の流れや方向性を注意深く見守りたいと思います。日本企業をはじめ外国企業にとっても、シンガポールとこれからどう付き合っていくかを見極めるための重要な期間となるでしょう。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano