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2016.02.22
矢野 暁
2016年2月8日、アジアの多くの国で旧暦の正月を迎えました。華人の多いシンガポールでも、8日と9日は祝日でした。中国語では「新年快楽(シンニェン・クアイラー)」とか「恭喜発財(ゴンシー・ファッツアイ)」などと言い合いながら、華人以外の人達も一緒に祝福します。私は16年住んでいるシンガポールの前には7年間ベトナムに住んでいたのと、家内がベトナム人でシンガポールでもベトナム人コミュニティとの付き合いが多いので、ベトナム語で「Chuc Mung Nam Moi(チュックムン・ナムモイ)」という機会の方が多い気がしますが。
因みに、旧正月のことをTet(テト=節)と呼ぶベトナム人だけでなく、東南アジアの華人の中にもChinese New Year(略してCNY)という呼称を嫌う人たちがたくさんいます。それゆえ私も極力Lunar New Yearと呼ぶようにしています。
いずれにせよ、旧暦をベースに占いやら風水やらを読み解く習慣が根強いアジアに長く住んでいますと、日本人としては少し変というかピンと来ないかもしれませんが、旧暦の正月の方が一年の始まりという実感を強く抱きます。
相場の世界では、昨年の未年は「辛抱の年」、そして申年は「騒ぐ年」といった格言がありますが、結構当たっているかなあ、などと勝手に思っています。まあ、2015年も世界中の経済や社会に騒々しい面も多々ありましたが、何とかかんとか耐え忍んでいた気がします。ところがどうでしょう、(旧暦ではなく太陽暦ですが)2016年に突入するや否や相場も世界経済も大きく荒れています。アジアもその荒波に翻弄されそうな雰囲気です。
シンガポール経済も2015年の経済成長は2%程度と、2014年の2.9%から減速し、金融危機後の2009年以来の低い伸びとなっています。政府は2016年の成長率を1~3%としており、辛抱した2015年をさらに下回る低成長となる懸念が滲み出ています。どうやら申年になっても、思いっきり飛び跳ねるというよりは、少なくても景気面では忍の局面が継続しそうですね。
こうなると外国人へ風当たりがますます強くなるのでは?という危惧も生じます。現状ではシンガポール人および永住者(PR)の失業率は0.6%と低い水準のままですが、「外国人がシンガポール人の職を奪っている、特にPMEs職の機会をもっとシンガポール人に与えよ」という議論・不満は根強いままです。(「外国人規制の強化」に関する第8回と第9回のコラムをご参照下さい。)雇用パスの審査基準の厳格化などについて、最近でもシンガポールの国会議員などからも結構過激な意見が噴出しています。
しかし、外国人雇用を制限してシンガポール人雇用を増やせば経済が良くなるのか?と言えば、そんなこともないでしょう。シンガポール人の生産性、費用対効果を改善することを政府も国会議員も、そしてシンガポール人自身も唱えるべきだと思います。センシティブであり言い辛いことでしょうが、それが本質の一面であり、本質を避けている限り本質は変わりません(当たり前ですが)。したがって、外国人を避けようとするほど、外国人が嫌気を感じるだけでなく、シンガポールのビジネス活動全体が悪循環に陥り、地盤沈下していくことでしょう。
もちろん、そうならないことを強く願っていますし、別にシンガポール政府に物言う立場にはないわけで、各企業、そして各企業人がこの申年にシンガポールや東南アジアでのビジネスにどう挑むか、これを冷静に考えて実行していくより他ありません。
経済・社会状況が少々騒々しく手強い年になりそうでも、騒がず落ち着いてオポチュニティを見出し、将来の成長に備えたアクションを起こすべき年だと考えます。下降・低迷・不安定といった時こそチャンスが多く転がっている、とポジティブに考えた方がよいでしょう。キャッキャとむやみに跳ね回るのではなく、かと言って未年のようにただじっと耐え忍ぶのでもなく、沈着冷静を保ちつつ跳躍していく、そんなイメージの年にしたいものです。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano