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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2016.07.25

マーライオンの眼差し (18) シティギャラリーへ行こう!

矢野 暁

巨大模型により都市開発の状況や将来計画を一望できる(筆者撮影)

<シンガポールの都市開発を手っ取り早く学べる場所>

企業や学校の研修でシンガポールを訪れる方々をよくお連れする場所があります。目的は、極めて限られた開発資源しか持たないシンガポールという国がどのような都市開発を進めてきたか、これからどのような開発を進めて行こうとしているのか、そこに秘められた工夫と計画・実行力を知ることにより、「制約下での開発・サバイバルの秘訣」のようなもののヒントを得て頂きたいからです。

その場所とは、CBD (Central Business District) のタンジョンパガー側やや外れにある政府機関URA (Urban Redevelopment Authority: 都市再開発庁) のSingapore City Galleryです。ビルの中に入ると1階にシンガポール全土(と言ってももちろん一つの小島ですが)の模型があり、2階にギャラリーの入口があります。誰でも無料で入れる博物館のような公共施設で、1時間かけずともざっと見て回ることができるので、まだ足を踏み入れたことのない方は是非とも一度のぞいてみて下さい。模型やパネル、映像やデジタルディスプレイで分かりやすく楽しい展示の工夫を施しており、小学3年生くらい以上のお子さんでも、ポイントを分かりやすくかみ砕いて説明してあげれば、良い学びの場になると思います。
(ウェブサイト:https://www.ura.gov.sg/uol/citygallery

インタラクティブなディスプレイが多用されており、開発の様子が様々な観点から分かりやすく学習できる(筆者撮影)

<土地・資源が希少な小島を賢く開発>

東西はフルマラソンの距離42㎞、南北はその約半分の23㎞しかないシンガポールは、無い無い尽くしの国です(お金はザクザクありますが…)。国土は勿論のこと、生命に欠かせない水や食糧も決定的に不足しています。土地は沿岸の埋め立てにより、独立後の半世紀の間に2割以上も拡張しましたが、水深が深くなってきたためこれ以上の埋め立てには困難が伴います。

横が駄目なら縦へとばかり、地下空間を目指した開発も進んでいます。昨年、法律改正を行い、地下30メートル以深は地上の所有権が及ばないようになりました。軍の弾薬庫は既に地下100メートル以深に移設し、ジュロン島の地下百数十メートルには石油貯蔵施設も完成済みです。将来はシンガポール国立大学(NUS)界隈の地下に「地下科学都市」を作り研究者4,000人がそこで働くという構想も真剣に検討されています。すなわち、そもそも地上にある大規模施設を地下に移設することにより、これ以上の「膨張」が難しい地上の土地を節約しようという訳です。

もちろん安全や健康などの面において様々なリスクを伴うので、慎重なスタディが続いています。地下都市建設の研究は世界中で進んでいますが、シンガポールが実現のパイオニアとなる日が来る可能性はあります。

土地も地表に限界があればテリトリー内の地中に空間を作り出せないか?と発想したように、水も雨水や「輸入水」に限界があればテリトリー内にある何らかの資源から水を作り出せないか?と発想しました。

すなわち、パイプラインを経由してマレーシアから購入している水への依存度を顕著に減らしていくべく、貯水池(雨水)による自給に加え、海水の淡水化、下水のリサイクルが進められてきたわけです。もちろん莫大なコストも伴うのですが、世界で最先端の技術を組み入れながら、サバイバルと発展のために次々と新たな手を打ってきました。

そして、自国のための莫大なインフラ投資で終わってしまわず、シンガポールで実証済みの都市型インフラ開発を海外へも輸出することで、むしろグローバルでのビジネスチャンスに結びつけているのです。そこに、日本の技術系や建設系などの会社も多く関与し、またこれから関与する機会が多くある筈です。
と、こんなことを考えながらシティギャラリーを見て回ると、小国シンガポールのDNAに組み込まれている「弱さを強さに変える」能力が垣間見えてくることと思います。

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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