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COLUMN コラム

マーライオンの眼差し

2016.08.22

マーライオンの眼差し (19) 号外! 五輪初の金メダル!

矢野 暁

<ジョセフ・スクーリングが巻き起こした大興奮>

いったい彼は何者だ!? 少なくとも在星外国人でこの人物を知っていた人は殆どいなかったでしょう。しかし8月12日、リオ・オリンピックの100メートル・バタフライ決勝で好調マイケル・フェルプスらを大差で破って堂々優勝したジョセフ・スクーリングの名前は、同日から翌13日にかけて、シンガポール島内中に瞬く間に知れ渡りました。同国にとり五輪史上初の金メダルにシンガポール人は大興奮。ゴールデンボーイの誕生に島全体が沸き立ちました。サプライズではあるものの、心から称賛するべき素晴らしいニュースとして、外国人の間でもあっという間に話題となり、ニュースを読みながら「へー、こんな凄い若者がいたんだー」と少し誇らしく思う程でした。

因みにこの歴史的レース、スクーリングを追いかけていたフェルプスを含む3選手が同タイムでシルバーメダルとなる珍事も起こり、輪をかけて歴史・記憶に残ることになりそうです。個人的には、破れたフェルプスの笑顔が爽やかだったことが強く印象に残っています。まるで兄貴のような笑顔。弟よ、よくやったぞ! そんな感じで小柄のジョセフの勝利を心底から称える王者フェルプスの姿がとても素敵でした。

8月18日にシンガポールで行われたヴィクトリー・パレードのコース案内(ザ・ストレーツタイムズのウェブサイトより)

<後半半世紀のスタート時に作られた新たな歴史>

既に英語でも日本語でも数多くの記事があるので詳細は繰り返しませんが、一人の人物の偉業が及ぼす影響力は凄い、とつくづく感じています。故リー・クアンユー元首相が建国後の最初の50年を作り上げた歴史的英雄であるとすれば、このスクーリングはこれからの50年の歴史の幕開けに名前を刻んだ新世代の英雄と言えるかもしれません。8月9日に51周年建国記念式典を終えた直後の大金星で、たった一つの星でも、これはお祝いの煌びやかな花火よりも輝きを放っていると思います。

彼の生い立ちをまだよく知らない方は、是非ウィキペディアや記事をご覧になって下さいね。ここには掲載できませんが、フェルプスとの出会いの運命的な写真なんかもあって、結構な刺激になりますよ。
フェルプスはもちろん超人的怪物ですが、このスクーリングも半端者じゃないです。そしてスクーリングの家族・親族も。6歳にしてオリンピックを目指し始めたこと、子供の頃にフェルプスとシンガポールで出会ったことや、今回リオで競い合ったことは、決して運命のいたずらや偶然ではなかったと私は思います。ジョセフやその両親の強い決意が、こうした運命を導いたと強く感じました。私たち(というよりは子供たち)の人生においても、学びや刺激の多いストーリーが沢山秘められています。

<この金メダルが投げかけた重要でセンシティブな課題>

スクーリングの金メダルという「国家的イベント」は、政治家や国民に対しても一つの課題を突き付けています。彼は子供時からスイマーとして抜きん出ていたので、テニスの錦織選手みたいに、高校から米国に拠点を移してトレーニングを積み重ねました(それを相談・決断したのがジョセフの父親、相談相手で米国行きを勧めたのがフェルプスだったとか)。21歳のスクーリングは現在もテキサス大学在学中です。ということは、男子国民18歳からの徴兵を特別に延期して貰っているわけです。

そして国家初の五輪金という偉業に対して、シンガポール政府・国防省は、東京五輪が終わるまで、すなわち2020年までの再延期をこの度承認しました。

世界の土俵で争うトップアスリートにとり、18〜20歳頃というのは死活的な時期です。その時期までに世界レベルの成績をあげている男子は徴兵を延期できるような客観的で透明性のある制度を能動的・積極的に導入してもよいのではと私は思います。もちろん、他国のことなので余計なお世話かもしれませんが、彼らは競技人生を終えた後、例えばナショナルチームや軍でスポーツを教えるコーチとして大きな貢献が出来る筈です。何よりもスクーリングが証明したように、一人の偉業による国民の士気への影響は計り知れません。特にこのような小国においては、それはとてもパワフルなものです。

また、スポーツに限定するイシューでもありません。音楽家も科学者も、世界レベルで抜きん出ていると客観的に誰もが認めるような傑出者は国家の宝であり、彼らに対してはその能力を特別な方法で磨くことにより、国家や軍に多大な貢献をして貰えば良いと思います。恐らくそういう議論が進むのではないかと想像します。
そう、ジョセフ・スクーリングの偉業は新しい歴史の扉をこじ開けるパワーを秘めているのだと思います。恐らく多くのシンガポール人もそう感じていることでしょう。おめでとう、ジョセフ!

シンガポール国防省はスクーリングに対して東京五輪終了後まで徴兵を再延期する特例措置を決定した(テレビ画像を筆者撮影)

矢野 暁

矢野 暁(サムヤノ)

Satoru Yano

PROFILE
慶應義塾大学を卒業後、東南アジア諸国における経済・社会インフラ開発に従事。その後、英国投資銀行にて、食品・飲料、ヘルスケア、衣料、小売等の分野のクロスボーダーM&Aの仲介・助言業務に携わる。ベトナム政府に対する国家開発支援アドバイザー、同国での多岐にわたるベンチャー事業の成功を経て、1999年にCrossborderをシンガポールに設立。ASEANを中心に、B2C・B2Bの事業を問わず大手日本企業や中堅企業がアジアで新規市場参入および事業拡張・改善をするために、戦略、組織、パートナーシップ、マーケティング、人材などの面で支援を行っている。また、アジア・ASEANや異文化・リーダーシップなどをテーマとする企業向けセミナーおよび社内研修の講師も務める。シンガポール経営大学(Singapore Management University: SMU)の企業研修部にて、日本企業、多国籍企業、シンガポール企業へのプロジェクト・コーチ&ファシリテーターも兼務。「アジアから日本を元気にする!」と「草の根レベルで地道にコツコツと」をモットーに、アジアを駆け巡りながら毎月の訪日も欠かさない。シンガポール永住。

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