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2016.09.20
矢野 暁
最近、シンガポールを訪れる日本企業幹部の方々からよく受ける質問です。従業員の安全確保の観点からも、またアジア事業戦略拠点という位置づけからも、企業幹部にとり当然の質問なのでしょうが、ちょっと前までは誰もそんな疑念を抱くことはなかったように思います。
ISIS等のイスラム過激派に起因するものの他に、国内・域内に抱える根深い対立関係を反映して、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピンなどのASEAN主要諸国ではテロやテロ未遂に係る出来事が続けて発生しています。差し迫る具体的な脅威についても、様々な報道を目にします。当然のことながら安全面への不安が高まっているのですが、正直なところ、これらの国々における不安は今に始まったことではなく、以前からリスクやマイナスイメージが付きまとっていました。それもあって国内外の人達は、いわば慣れっこになってしまっている面も否めません。つまり、IS云々の前から、「まあ、そういう国だから気をつけないとね」という一般通念のようなものが広く共有されてきました。
ですが、シンガポールとなると真逆です。様々な面での社会経済インフラの充実、政治経済活動における腐敗度の著しい低さなどに加えて、「治安の良さ」が周辺諸国と対照的に際立っていることが、いわば「売り(セールスポイント)」となっています。治安の良さはまるで空気のように当たり前の環境としてあるので、その有難味が従来は必ずしも強く意識されていなかったようにも思います。
しかし、8月の独立記念日の前に発生したバタム島からマリーナ地区(マリーナベイサンズやマーライオンのある一帯)をロケット弾で狙う一味の逮捕という事件にも象徴されるように、かつて経験したことのないような具体的危機が差し迫っており、シンガポール政府も「テロと戦う姿勢」を前面に打ち出しています。米英寄りでキャピタリズムの権化のようなシンガポールが狙われるのは、変な言い方ですが、テロリストの論理からすると道理にかなった面もあります。人々が密集する金融や商業の中心街に加えて、アジアを代表するような港湾・空港や石油化学コンビナートなどの大型で近代的な施設が多数存在します。シンガポールとしては、治安だけは何としても堅守しなくてはならい、それこそ小国として死活的な最重要課題なのです。
シンガポールの軍や警察がテロ対策を強化していることはもちろんですが、「まだゆるゆるだなあ」と感じることもよくあります。むやみに緊張感を高めないために「さり気なく」警備することが求められるのでしょうが、無防備だったりチェックの形骸化だったりと、わきが甘い面も否めません。テロリストを島には絶対に侵入させない、そしてテロリストが島で生まれないようにするしか手立てはないのでしょうが、現実には難題です。
水際での防衛には、もしかするとマーライオンも利用されているのかも? これは国防秘密でも何でもなく、私の勝手な空想でしかないのですが、マーライオンの目には超高精度の赤外線カメラが埋め込まれ、24時間マリーナ地区一帯やロケット弾の飛来などを監視しているかもしれません。そして水を吐く口からは、実は迎撃ロケットが発射されるようになっている、なーんてことはないでしょうね、やっぱり(失礼しました!)。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano