文字サイズ
2017.02.20
矢野 暁
ご存じの通り、シンガポールには兵役の義務「National Service (NS)」があります。詳細を端折(はしょ)って簡単に言いますと、シンガポール人ならびに永住者(PR)の男性は18歳になると全員徴兵され、2年間の訓練を受けます(軍だけではなく警察や消防なども対象となります)。その後については、軍勤務を希望しない人は予備役(Operationally-Ready National Service)に編入され、一定の年齢に達するまで年一度の召集に応じる義務を負います。
現代日本にはそうした制度がありませんから、日本人には何だかピンときません。ですが、シンガポール人にとっては、徴兵される男子だけでなく、家族や企業、社会の全体が関与する根幹的な制度です。それゆえ、兵役・国防に対する市民の理解と意識を高めることは政府にとり重要な任務であり、いわば政府広報が行われています。その一環として設立されたのが、シンガポール・ディスカバリーセンター(SDC)です。
SDCはシンガポール西部のジュロン地区郊外にあり、軍事訓練施設SAFTIに隣接しています。地下鉄Joo Koon駅から5分ほど歩き大通りから敷地内に入ると、小さな湖を中心に緑豊かで広大な、田舎風の長閑な光景が目に入ってきます。SDCには展示の他に陸海空軍の合同軍事演習のシミュレーションなど、ハイテクを駆使した様々な体験型アトラクションがあり、特に子供(なかんずく男の子)の興味をそそるようなゲーム感覚のものが多いな、という印象です。やはり、将来の徴兵対象となる男の子たちの関心を高めよう、という意図がうかがえます。
また映画館もあり、軍事関連ドキュメンタリーなどに加えて一般映画も普通に上映しており、誰でも気軽に訪れることができるような施設にしてあります。更にクロスファイア・ペイントボールのフィールドもあり、チームスピリット向上などを目的に法人研修にも利用されています。隣のSAFTI敷地内にも専用バスでぐるっと回ることができ、専用ガイドが案内をしてくれます。週末は大部分の兵士が自宅へ戻るので人影はまばらですが、平日でしたら訓練の光景を見ることができるかもしれません。
蛇足ですが、SDCを訪問されたら是非ともフードコートへ足を運んでみて下さい。正直食べ物はたいしたことありませんが、湖に面したバルコニーに座っての~んびりとすると、少々非日常的なピースフルな感覚を味わえると思います。
湖を隔てて反対側には、Army Museumもあります。小ぢんまりとした博物館ですが、射撃体験ができたり、歴史の一端を垣間見ることが出来たりします。20~30分もあれば見て回ることができるでしょう。小さいお子さんには、博物館の外にあるちょっとチャレンジングな公園で退屈しのぎをするのもよいかもしれません。
SDCを含めて圧倒的にシンガポール人の訪問者が多いようですが、日本人や西洋人の家族連れも結構見かけます。駅から近くて便利ですので、「あまり過度には期待せずに」気軽に一度訪ねてみて下さい。シンガポールやシンガポール人への理解が少し深まるかもしれません。
矢野 暁(サムヤノ)
Satoru Yano